研究課題/領域番号 |
21K03708
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
遠山 知亜紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (30649273)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 塩素同位体 / ハロゲン / 標準物質 / マントル不均質 |
研究実績の概要 |
ハロゲンは水に取り込まれやすく、また、揮発性であるため、一般にマントルに少なく、沈み込む物質(海水・海底堆積物・間隙水)に多い。さらに、地表環境で有機物や生物を含む多様な反応に関与するため、ハロゲン元素比(Br/Cl-I/Cl)は海水・海底堆積物・海洋地殻・間隙水で異なる値を示す。これらの特徴から、マントル内物質循環を調べる指標として有用である。しかし、中央海嶺玄武岩等が示すマントルのハロゲン元素比は間隙水と一部重複しており、その起源を元素比だけで判別することは難しい。そこで、マントルと間隙水の区別が可能と考えられる塩素同位体(δ37Cl)に注目したが、従来の分析法には精度や確度に関して問題点があったため、本研究はそれらをクリアした新たな塩素同位体分析法の確立を目的とした。申請者は新たな塩素同位体分析法の確立を以前から進めており、当時所属していた海洋研究開発機構において、フェムト秒レーザーアブレーション装置(LA)と二重収束型多重検出ICP質量分析装置(MC-ICP-MS)を用いた新たな塩素同位体分析法を確立した(Toyama et al., 2015)。本年度は、同手法を産業技術総合研究所において再度立ち上げを行った。 まず、産業技術総合研究所のLA-MC-ICP-MSは、海洋研究開発機構で使用したものと異なるため、それぞれの測定条件を改めて見直した。具体的には、国際海洋科学協会(IAPSO)が作製する人工の標準海水から作成した塩化銀と関東化学の塩化銀試薬を試料とし、LA(出力量・周波数・照射時間)とMC-ICP-MS(ファラデーカップの位置・測定時間)の測定条件を検討した。その結果、これらの測定条件について決定することができ、塩化銀の測定結果は海洋研究開発機構で確立した手法と同程度の精度を得られるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はコロナ感染症拡大により出勤調整も行われ、さらに急遽、連携推進室へ1年間の出向となったため、申請者自身による実験作業がほとんど実施できなかった。しかしながら、海洋研究開発機構でのこれまでの手法立ち上げ経験を活かし、極めて少ない時間であったが効率良く研究を進め、成果を得ることができたと考えている。次年度は出向が解けるため、本研究を加速させることができる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、MC-ICP-MSが安定する時間の決定を行い、本手法の精度を上げる。そして、IRMMの塩素同位体標準溶液(ERM-AE642)と市販の塩化銀試薬(関東化学、富士フイルム和光純薬、Sigma-Aldrich)を用いて、手法の確度の評価を行う。その後、IAPSOの人工海水と天然の海水を用いて海水の評価を行い、海水の違いによるδ37Cl値への影響を検討する。最終的には、様々な標準物質の塩素同位体とハロゲン濃度の分析を行い、最適な塩素同位体標準物質の決定を目指す。
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