研究実績の概要 |
本研究の目的は①産業技術総合研究所における塩素同位体分析法の確立、②δ37Cl値の基準となる海水の評価、③塩素同位体標準物質の選定、④標準物質のハロゲンデータセットの構築である。本研究で行う塩素同位体分析法は、申請者が海洋研究開発機構在籍中に確立したフェムト秒レーザーアブレーション装置(LA)と二重収束型多重検出ICP質量分析装置(MC-ICP-MS)を用いた塩素同位体分析法(Toyama et al., 2015)をベースとし、産業技術総合研究所のMC-ICP-MSに合わせて測定条件等を変更した分析法である。本研究はこれまでに目的①の分析法の立ち上げが完了し海洋研究開発機構での測定と同程度の精度を得られるようになっていた。しかし昨年度に、ヘリウムガスの供給不足に伴いキャリアガスを変更したところ測定精度が悪化してしまったため、その原因を調べ改善することを今年度の最大の目標とした。測定精度の悪化は、LAのキャリアガスにアルゴンガスを使用したことでLAの照射時とその前後で37Clの妨害となる36Ar1H分子の生成量が変化しバックグラウンドが変動することが原因と考えられる。そこで、36Ar1H分子の生成率が低くなる測定条件を検討した。さらに測定中の38Arをモニターし、その変化から36Ar1H分子の変動を推定して、37Clの測定データを補正する方法を取り入れた結果、従来の精度まで改善させることができた。次に、標準海水や塩素同位体標準溶液を用いて手法の精度と確度の評価を行った。試料溶液から塩化銀を複数回作成し測定をしたところ、試料の塩素同位体比はそれぞれの試料でほぼ一致した。さらに、数年前に作成し保管していた標準海水の塩化銀も同時に測定したところ、今回新たに作成した塩化銀の塩素同位体比と一致し、時間経過による同位体比の変化が見られないことが分かった。
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