研究実績の概要 |
本研究では, プレート境界近傍での応力緩和(粘性緩和)が地震の発生の有無を支配しているという仮説を検証する.そのため,繰り返し地震とスロー地震間の時空間的遷移の特徴を東北沖地震の前後に着目し行う.新たに構築された海域観測点(S-net)を用いたデータ解析では,まず,2018年秋に公開された海域のS-net連続波形データについて,観測機器の姿勢の補正や波形フォーマット変換などのデータ整理を行った.さらにこれを用いてプレート境界で発生するこれまでよりも小さな繰り返し地震までもれなく抽出するために,機械学習を用いた地震検知・震源決定システムの構築に着手した.その結果,短期間のサンプルのデータについて人間の読み取りに基づくものと同程度の数の地震を検出できることが確認できた.また,本年度は繰り返し地震抽出用の高速計算機を導入することで,得られた微小地震から繰り返し地震を抽出するための準備も整えた.さらに,海外の研究協力者(カリフォルニア大学バークレー校の Roland Burgmann氏)のもとで約11ヶ月の共同研究を行うことにより,地球の粘弾性的性質についての知識を深めた.また,繰り返し地震とスロー地震間の時間的遷移が観察された東北沖のプレート境界深部領域の地震の破壊の進展方向についての研究を行い,プレート境界の地震の破壊がプレート境界が浅い方向(updip)に進展する傾向があることを突き止め,論文として出版した(Yoshida et al., EPSL, 2022).これは,今回注目する遷移領域での地震のメカニズムに関して重要な知見と考える.また,研究フィールドである東北沖の地震活動について情報を整理したレビュー論文も出版した(Uchida and Burgmann, Review of Geophys., 2021).
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