研究課題/領域番号 |
21K03717
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
隅田 育郎 金沢大学, 地球社会基盤学系, 准教授 (90334747)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 内核 / 地震波速度 / 減衰 / 散乱 / コーダ波 / 粉粒体 / 超音波 |
研究実績の概要 |
内核外核境界(ICB)付近を透過するP波の速度と減衰が東西半球で異なること、またICBで反射するP波が散乱を示すコーダ波を伴う場合があることが地震波の観測から知られている。本研究は粉粒体を用いた室内モデル実験に基づき、これらの観測事実が内核を構成する鉄の結晶サイズが東西半球で異なるためである、という仮説を検証し、東西半球における反射特性の違いを予測することを目的としている。
実験では水に浸したガラスビーズの粒径d、超音波の波長λ、伝搬距離L、の3つのパラメータを変えた時、超音波の波形、速度、減衰、反射係数がどのように変わるかを解明する。弾性波の特性はd/λ、L/λの関数として整理されることが理論的に予想されているが、実験による検証は十分ではなく、特に波形の詳細については理解が不十分である。
昨年度は主としてdのみを変えた予察的な測定を行い、d/λ~1付近で波形が顕著に変わることを確認した。今年度はd/λ~10までd/λの範囲を広げ、さらにバースト波を使ってλ依存性、層厚が可変の新しいセルを使ってL依存性を調べた。その結果、d/λ~1付近でレイリー散乱を示唆する正分散が見られ、d/λが増加すると、ミー散乱を示唆する前方散乱が卓越する波形が見られること、反射係数がd/λと伴に減少すること、従来は散乱が弱いと考えられてきたL/λ<10の条件下でもコーダ波を伴うことが分かった。正分散は水のみの中を伝搬したP波の波形との位相差を求めることにより、定量化することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度行った予察実験を踏まえて、本格的な実験を行うために以下を行った。 (1)新たに円筒のセルに浸水型超音波素子を設置した実験セルを作成した。このセルに水に浸した任意の厚さのガラスビーズ層を形成し、その層を透過、反射するP波を測定する。浸水型素子を使うことにより、アクリル容器内で反射する超音波を除去することが出来、高周波数(~10MHz)の弾性波の伝搬特性が調べられる見込みである。また新たにこれまでよりもデータ点が8倍多く取得できるオシロスコープを導入した。このオシロスコープを用いることにより、より精密な周波数依存性、コーダ波解析ができるようになった。 (2)予察実験では波形の立ち上がりのみからP波の伝搬速度を求めていた。しかし散乱減衰が顕著になると長波長成分が卓越するようになり、立ち上がりを正確に求めることが困難になる。そこで水に浸した粉粒体の中を伝搬したP波と水のみを伝搬したP波の位相差から伝搬速度を求める方法を併用することにして、解析プログラムを作成した。この方法を用いることにより、散乱が起きる場合にはP波の周波数分散を定量的に求めることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はd/λ ~ 0.1 - 10、L/λ ~ 0.1 - 10、をカバーするように、透過波、反射波の実験と解析を進める。超音波はλを制御したバースト波、素子の固有周波数を中心とするパルス波の両方を使う。そして、P波速度、減衰の定量化、波形の特徴付けを行い、d/λ、L/λのパラメータスペースで整理し、内核の地震波速度構造の理解へとつなげる。以上の成果は、共同研究を行っている学生の修士論文としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新しく導入する機器の仕様を決めるために、既存の計測機器、超音波素子を使って測定を行ったため、次年度使用額が生じた。次年度は機器の更新、研究発表経費、共同研究を行っている学生が研究をまとめるための経費として使う。
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