研究課題/領域番号 |
21K03720
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 活志 京都大学, 理学研究科, 准教授 (70509942)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 応力逆解析 / 摩擦係数 / 小断層解析 / 構造地質学 |
研究実績の概要 |
2022年度は,断層データから複数の応力と摩擦係数を同時に検出する逆解析法開発の試みとして,混合確率分布を用いる手法の開発を進めた.複数の応力を検出する手法は,2000年代以降にいくつか提案されてきた.岩脈や方解石双晶を用いた応力逆解析では,混合確率分布と情報量規準を用いて応力数を決定できるようになっている.しかし,断層データを用いた解析ではそれができていない.これは,断層データの頻度分布を表現する確率分布モデルが存在していないためである. そこで,逆解析の目的関数を断層ごとに算出し,目的関数値の頻度分布を表現する確率分布モデルを考案した.目的関数は,従来の応力逆解析で最小化されるミスフィット角(観測された滑り方向と剪断応力がなす角)と,摩擦係数の決定において最大化される断層不安定度(滑りやすさ)の両方から構成される.複数の確率分布を重ね合わせた混合分布モデルを用いることで,最尤法の手順によって複数の応力と摩擦係数を決定できる.また,混合する分布の数を変えて解析結果を比較すれば,情報量規準によって最適な解の数を決定できる. 模擬データの解析により新手法の性能を検証した.模擬データとして,南北圧縮と東北東圧縮の2つの逆断層型応力に適合する断層を50条ずつ混ぜ合わせたデータを作成した.前者の応力に適合する断層は,内部摩擦角を30°と想定し,断層不安定度の大きい方位に集中している.後者の応力に適合する断層面の方位はランダムである.解析の結果,情報量規準によって応力数2が正しく選択された.主応力軸はほぼ正しく決定されたが,摩擦係数の確度は低かった. 新手法を,別府-島原地溝の第四系碩南層群(大分県大分市付近)を切る小断層群に適用した.結果として応力数2が選択され,南北引張と東北東-西南西引張の2種類の正断層型応力が検出された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の応力と摩擦係数を検出する逆解析法開発をほぼ順調に進められた.模擬データを用いた数値実験においてはほぼ期待通りの応力が得られた.ただし,摩擦係数の確度が低い傾向が見られたため,多様な条件で模擬実験を繰り返すことで,確度を確認する必要がある.また,計算に長時間を要するため,精度(信頼範囲)を求めることはできていない. 各地の地質調査により天然の断層データの収集を進めた.解析には100条程度以上の断層が必要だが,それに満たない地域は調査を継続する必要がある.千葉県房総半島および大分県別府湾周辺地域のデータを解析したところ,それぞれ複数の応力・摩擦係数を検出できた.それらの応力は先行研究に照らして妥当なものであった.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発した手法の性能を確かめるため,確度・精度(解の信頼範囲)を調べるための数値実験を行う.また,解の数を変化させて,データ数と検出可能な応力・摩擦係数の関係を調べる.これにより,天然のデータを収集する際のデータ数の目安が得られると期待される. 天然のデータ収集では,千葉県房総半島の安房層群(三浦層群)における調査を行う.これは,前年度までに調べた上位の上総層群よりも複雑なテクトニクス史を経験していると見込まれるので,新手法の検出限界を調べるために適しているからである.
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次年度使用額が生じた理由 |
野外地質調査のため年度末に旅費を使用したが,有料道路料金の割引やレンタカー代金の割引が発生し,予想よりも支出が少なかった.翌年度の野外調査において余剰分を使用する.
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