研究課題/領域番号 |
21K03724
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
遠藤 俊祐 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 准教授 (60738326)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 高圧変成岩 / 斜め沈み込み / 三波川変成帯 / 周防変成帯 |
研究実績の概要 |
西南日本の中生代高圧変成岩は,時代に関わらず温かい沈み込みの条件を記録しているようにみえる.これらの変成帯の形成と上昇にはプレート斜め沈み込みが関与し,若いプレートの沈み込みがなくとも温かい沈み込みを長期間存続させる要因ではないか,という可能性を検討することが目的である.当該年度は鳥取県若桜町(古生代高圧変成岩),島根県三隅町(前期ジュラ紀の周防変成岩),愛媛県西条市~東温市および四国中央市猿田川(白亜紀の三波川変成岩)において野外調査を行った.若桜町の蛇紋岩中のブロックとして高温沈み込みを示唆するざくろ石角閃岩を新たに発見した.三隅町の低変成度周防変成岩は300℃程度の脆性延性遷移領域の沈み込みプレート境界の変形・変成作用(褶曲した引張クラック充填脈を構成する石英の低温動的再結晶組織など)を記録していることが明らかになった.鉱物脈中の炭酸塩は方解石であるが,泥質メランジュの石灰岩ブーディンに低温高圧を示すアラゴナイト仮像組織とみられる繊維状構造が確認された.このことは温かい沈み込み条件は見かけ上のものであることを示唆するかもしれない.猿田川地域の三波川変成岩は上昇期の加熱を示唆する時計回り温度圧力経路の領域とヘアピン型温度圧力経路の領域が隣接していることが明らかになったが,定量的な温度圧力経路や両領域間の地質構造は未解明である.三波川変成岩の形成時に沈み込んでいた海洋プレートの性質を調べるため,高知県本山地域および愛媛県西条市において,変成作用を受けたプレート内火成岩類の野外調査と地球化学的検討を行った.ジュラ紀付加体とは対照的に,三波川変成岩を形成した海洋プレート上に大規模な海山は少なかったが,アルカリ玄武岩シルを形成するような小規模プレート内火山は普遍的に存在したことが推定された.またその年代を決定するためケルスート閃石のK-Ar年代測定を実施中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は遅れていた野外調査が実施できたことで,時代の異なる西南日本の高圧変成岩類に関して,成果の取りまとめに向けた野外地質及び岩石学的な情報が蓄積されつつある.また三波川変成岩の総説論文の執筆に着手できた.これらを総合的に判断しておおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
若桜町の蓮華変成岩類は,まずは基本的な記載岩石学および鉱物化学に関するデータの収集を行う.そのうえで温度圧力,年代などの検討を行い,冷たい沈み込みを示唆する青色片岩と,ざくろ石角閃岩のような高温沈み込みを示唆する岩石が同一変成帯から産することを説明する合理的なモデルの構築を目指す.ジュラ紀の周防変成岩類については,最低変成度部(島根県西部の益田・三隅地域)と最高変成度部(鳥取県日南町)について,引き続き野外地質データを収集する.特に低変成度部での玄武岩類の準脆性変形構造や高変成度部の蛇紋岩のBlock-in-matrix構造について,詳細な構造データを収集する.また,低変成度部も高変成度部もともに沈み込み時は高圧力/温度比であったこと(アラゴナイトやローソン石が存在した痕跡)が示唆されたため,温かい沈み込みは上昇時に獲得した見かけのものである可能性があり,組織観察と熱力学計算をあわせて慎重な検討を進める.白亜紀の三波川変成岩類については,低変成度部でのローソン石交代作用と準脆性変形に関するデータを取りまとめ論文投稿を目指す.猿田川地域の上昇期温度圧力経路の違いをもたらした要因は,時計回り温度圧力経路を生み出す熱源とも関係する問題であるため,より詳しい地質構造と定量的な温度圧力データをもとに検討を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
K-Ar年代測定は年度をまたぐ契約となったため次年度使用額が生じた.K-Ar年代測定は4月に執行し,わずかな残額はEPMA分析用の消耗品にあてる.
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