本研究では、地震波アレイ解析の手法を用い、地球のマントル内部の対流によって摺曲・変形した玄武岩領域の詳細な構造及びそのグローバルな空間分布を明らかにし、マントルの物質循環、特に撹拌・混合に関する新たな描像を構築することを目的として、以下の三項目①から③に取り組んだ:①マントル中の小規模不均質構造(1から100㎞スケール)に起因する様々なタイプの地震波散乱の観測(図1参照)を総合してグローバルな散乱体分布を決定し、地震波トモグラフィが描く大規模スケール(100kmから数千km)の不均質構造との関連を調べた。②いくつかの顕著な小規模不均質構造に着目し散乱された地震波を新手法で解析することで各々の散乱体形状(褶曲構造)を詳細に決定した。③散乱体の形状と対流シミュレーションにより再現される褶曲構造を比較検討し、褶曲過程を支配する主要因である散乱物質と周囲のマントルとの密度と粘性コントラスト等について考察した。本研究によって、太平洋のサモアホットスポットに向けてマントル深部から上昇する流れ(マントル・プルーム)に、海洋地殻物質がマントル深部の対流中で撹拌された後に混合されて取り込まれる過程に関する観測的制約が与えられた。また対流する太平洋下の上部マントル内に、かつての海洋地殻物質によって構成された不均質構造が広く分布していることも明らかになった。これらの成果によって、火山岩の地球化学的分析によるマントル不均質像と、対流のダイナミクス・モデルを統一的に理解するための道筋が開けた。
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