白亜紀に発生した海洋無酸素化事変(OAEs)は,温室期における地球システムを理解する上で,重要な研究対象であり,本研究計画では,OAEsの発動要因として注目されている“風化仮説”の実態と影響を検証する.手法としては,OAEs層準で採取した泥岩試料を,申請者が開発した地球化学的な“後背地風化指標であるW値を用いて,OAEsと後背地の風化度の関係を吟味することを目的としている. 本年度では,北海道の蝦夷-空地帯に分布する蝦夷層群の泥岩試料の分析と解析を実施した. 汎世界的な海洋無酸素事変として知られる海洋無酸素事変2(OAE2)では,顕著な大陸地殻の風化度の増大が検知された.このことから,極度の温暖化が海洋無酸素化を引き起こすことが,地球史の中で実証例があることがわかった.さらに,この現象には大陸地殻の風化作用の増大が深く関与していることが明らかになった.一方で、検証したもう一つの海洋無酸素事変であるMid-Cenomanian Event (MCE)では,顕著な大陸地殻の風化作用の増大は検知されなかった. 今回の研究成果は,温暖化とそれに伴う大陸地殻の風化作用増大が海洋無酸素事変という地球環境の悪化を招くことがわかった.しかし,必ずしも全ての海洋無酸素事変が大陸地殻の風化度増大という作用を経由しているわけではないことも明らかになった.海洋無酸素事変には,他の要因が背景として作用している可能性が示されて,海洋無酸素事変が一義的な現象ではなく,その複雑さが明らかとなった.
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