現在,変形性膝関節症の罹患者が高齢化とともに増加しており,早急な原因の究明と治療法の確立が求められている.この関節症は,膝のクッション代わりとなる軟骨の変性により痛みが生じるものである.つまり,軟骨の構造変化を調べることで,病態進行の引き金や臨床での早期発見方法の解明に繋がると考えられる.そこで本研究では,軟骨の応力による内部構造変化を解析することで,変形性膝関節症進行度の定量的評価を行うことを目的とした.本研究における解析手法として,ラマン分光法を用いる.ラマン分光法は物質に可視光を当てた際に発するラマン散乱を利用し,それをラマンシフトというスペクトルとして出力する方法である.軟骨圧縮時の計測では,組織の成分だけでなくその構造も計測できる点,また生体に適用可能である点が求められ,ラマン分光法はそれらを満たすことから本研究に適している.計測では,試験片をブタ膝関節軟骨から切り出し,無処理のものを通常軟骨の試験片,トリプシン溶液にて軟骨内のプロテオグリカンを変性させたものを変性軟骨の試験片として用いた.実験では片持ばり型の圧縮治具にて軟骨に圧縮負荷を与え,ラマン分光装置を用いてラマンスペクトル計測を行った. 通常軟骨の計測結果では,軟骨成分であるコラーゲン成分のピークが,圧縮前後で移動することを確認できた.また,変性処理の有無により,圧縮負荷をかける前後のラマンスペクトルを比較すると,ピークの位置変化に違いがあることが確認された.このことより,軟骨圧縮時に軟骨成分のピークが変動し,軟骨の特性によりその変動値が変わることが分かった. 研究期間全体を通じて,ラマン分光法に基づいた分子スケールの生体軟骨の力学解析手法を確立し,これを実際のブタ関節軟骨に応用することで,軟骨の変性状態を取得する可能性を示すことができた.
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