本年度は,ニューラルネットワークを用いた機械学習を適用して微視的力学特性に「ゆらぎ」があるような多結晶金属材料の,巨視的な応力ひずみ関係を予測する手法の開発を行った.微視的力学特性の分布広がりおよび巨視的な応力ひずみ関係を,複数の材料に対するナノオーダの押込み試験であるナノインデンテーション試験および単軸引張試験によって測定した.力学特性に分布広がりがある材料に対するナノインデンテーション試験結果から抽出された微視的力学特性の特徴量をニューラルネットワークの入力パラメータとし,単軸引張試験結果から得られた巨視的力学特性の特徴量を出力パラメータとして抽出した.単一の材料に対して,複数回のナノインデンテーション試験から得られる入力パラメータと一度の引張試験から得られる出力パラメータを1組の入出力データセットとし,ニューラルネットワーク用の学習データを材料数だけ作成した.巨視的力学特性予測に寄与度の高い微視的荷重変位曲線の特徴量の選択方法は未知であったため,入力パラメータを複数の方法で選択して出力パラメータを予測した.予測された出力パラメータと引張試験で得られた出力パラメータを比較し,巨視的力学特性予測に最適な入力パラメータを検討した.その結果,押込み変位50 nm以上の押込み荷重だけでは加工硬化率の低い材料の予測は困難であり,押込み変位50 nm未満の荷重情報を考慮する必要性が示唆された.変形初期の荷重情報を考慮することで加工硬化率の低い材料の予測精度は向上した.一材料につき複数のナノインデンテーション試験結果から巨視的応力ひずみ関係へ寄与度の高い荷重変位曲線を抽出し,抽出した荷重変位曲線上の点を機械的に選択してニューラルネットワークモデルの入力パラメータとすることで,微視的力学特性に「ゆらぎ」のある多結晶金属材料の巨視的力学特性予測に成功した.
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