研究課題/領域番号 |
21K03748
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
梅澤 修 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (20343171)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 極低温構造材料 / 微小き裂形成 / ひずみ不整合 |
研究実績の概要 |
極厚材と加工熱処理材における熱処理過程と金属組織および強度特性との関係を比較検討し、結晶界面に生じる「 ひずみ不整合」とそれに起因した特定の界面に生じる局所変形集中がどのような過程を経て微小き裂を形成するのか、これまでに得られた実験的検証を進めている。具体的には、加工熱処理条件が異なるオーステナイト鋼およびTi合金を用い、どのような金属組織パラメータが極低温での変形能と耐き裂形成に有効か、特性評価を行った。 まず、極低温下での強度とき裂形成:極低温構造材料として汎用される高Cr-Ni-Mn-N系オーステナイト鋼より、候補材料であるXM19鋼(22Cr-12Ni-5Mn-0.2V- 0.2Nb-0.3N, mass%)を供試材に用い、加工履歴の異なる100 mm極厚板、30 mm厚板、冷間溝圧延材に種々の熱処理を施し、強度特性(4 K, 77 K, 293 K)に及ぼす加工熱処理条件と試験片採取位置の影響を明らかにした。 次に、再結晶・等軸α粒の(0001)を応力軸に平行に配向させたnear α型Ti合金を用いて77 K高サイクル疲労特性を評価した。高サイクル疲労破壊を支配する(0001)擬へき開割れが抑制され、高サイクル疲労強度の改善が得られた。しかしながら、内部疲労き裂発生を回避はできず、ひずみ不整合に起因してα相(HCP)界面に分散する軟質なβ相(BCC)にボイド状空隙が形成し、その応力集中箇所から硬質α相内に粒内き裂を生じた。ボイド状空隙が局所的3軸応力場を与えて(0001)微小き裂や(10-10)すべり面分離を生じて微視割れに至る微小き裂形成機構を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文発表2報、国際会議論文1報(掲載確定)、国際会議発表2件、国内学会発表1件を行った。そこでは、加工熱処理条件が異なるオーステナイト鋼およびTi合金を用い、どのような金属組織パラメータが極低温での変形能と耐き裂形成に有効かを実験的に明らかにし(①極低温下での強度とき裂形成)、「ひずみ不整合」による局所的な塑性変形集中がどのように応力集中源(局所的3軸応力場)を形成して微視割れに至るかの微小き裂形成機構(②第2相および析出物近傍に形成するボイド状空隙と微小き裂との関係)について、研究成果を導くことに成功している。 さらに、③軟質領域と硬質領域との界面に形成するボイド状空隙、④可動転位分散組織制御によるひずみ不整合の緩和の項目についても実験に着手しており、各項目とも概ね順調に研究進捗を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
飽和転位下部組織が形成して結晶界面に生じる「 ひずみ不整合」とそれに起因した特定の界面に生じる局所変形集中がどのような過程を経て微小き裂(粒界割れや粒内擬へき開割れファセット)を形成するのか、これまでに得られた実験的検証を発展させる。そして、どのような材料組織因子を制御することがひずみ不整合状態を緩和し、耐き裂形成に対して有効か、その設計指針を導びく。 まず、 冷間溝圧延材に部分再結晶処理および再結晶処理を施したオーステナイト鋼の77 K高サイクル疲労特性を評価し、部分再結晶処理材の高サイクル疲労強度が著しく改善することを検証してその要因を明らかにする。そして、可動転位分散組織制御が「ひずみ不整合」を緩和する金属組織設計として以下に有効かを検証する。 次に、Ti-5Al-2.5Sn合金では変形双晶の発生が抑制されるが、4 K疲労変形中に何故{11-21}変形双晶が誘起されて双晶面割れを引き起こすのか、変形双晶界面近傍における主すべり面{10-10}の駆動とボイド状空隙形成について実験検証を進め、き裂形成機構について明らかにする。 最終的には、異なる加工熱処理条件下での変形・破壊特性を比較し、析出物および第2相の分散、結晶粒径、結晶粒方位分布、可動転位の均一分散が、耐き裂形成に対してどのように有効か、疲労損傷組織のリセッティングの視点から検討を進める。そして微小き裂形成機構を提案し、内部疲労き裂発生を抑制する金属組織制御への適用に結びつける。
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