本課題の最終的な目的は,ネットワーク構造と疲労下限界のミクロな破壊プロセスとの関係を実験的に明らかにし,マクロな疲労き裂伝ぱ抵抗へ及ぼす影響を知ることである.令和5年度は,前年度までに確立したネットワーク構造顕在化手法をさらに発展させるとともに,不均一ネットワーク構造を有するエポキシ樹脂の疲労き裂伝ぱ特性を調べた。 これまで検討を行ってきたアニオン重合型触媒について,硬化したエポキシ樹脂の架橋構造を原子間力顕微鏡を用いて観察した.研磨及びイオンビームエッチングにより表面粗さの異なる試料表面を作成し,観察条件についても検討を行った.未吸水状態では凹凸像,位相差像ともに明確な構造がみられなかった.試料を吸水させて測定を行った結果,凹凸像では大きな差がみられなかったが,位相差像において約50nmの球状の構造を同定することに成功した.本結果は,吸水後の動的粘弾性挙動においてガラス転移が二段階の温度で生じる現象を裏付けるものであり,架橋構造を明らかにすることが可能となった. また,前年度までに架橋不均一性の増大が接着疲労特性を低下させることを明らかにしたが,これらの原因を調べた.線膨張係数の測定から,残留応力の影響は小さいことがわかった.樹脂単体のの疲労き裂伝ぱ特性について検討し,架橋不均一性が高い組成は疲労き裂伝伝ぱ抵抗が低いことを明らかにし,樹脂特性が接着疲労特性へ及ぼす影響が大きいことを見出した.
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