研究課題/領域番号 |
21K03756
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研究機関 | 湘南工科大学 |
研究代表者 |
大見 敏仁 湘南工科大学, 工学部, 准教授 (90586489)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水素脆化 / 数値解析 / 疲労 / 過大荷重 |
研究実績の概要 |
鉄鋼材料において材料中に水素が侵入することで誘起される「水素脆化」現象は、未だにそのメカニズムが完全には解明されていない。しかし,水素脆化は材料中の水素濃度が局所的に増加することにより誘起される。従って,材料中の水素凝集メカニズムを解明することで,水素脆化が誘起されにくい材料や使用条件を知ることができる。 他方,金属疲労について,稀に通常の疲労負荷以上の荷重が加わる場合には疲労限度が低下し安全上問題ないとする実験結果がある。これはき裂近傍での加工硬化が進行して損傷領域が小規模化するためと考えられる。しかしながら水素凝集の観点からは,降伏領域が小規模化すると応力勾配が増加して水素が凝集しやすくなり水素脆化が促進されて危険であると予測される。金属疲労や予期せぬ過大負荷に対する水素脆性を評価することは,水素社会実現のための安全な構造物設計に必要な知見となる。本研究では,過大荷重履歴のある疲労条件下での応力集中部における水素凝集条件を数値解析により明らかにする。 これまでの研究で開発してきた水素拡散解析プログラムに,過大荷重を含む疲労負荷を解析できるように改良して材料中の水素拡散解析を行った。この数値解析では,切欠き周りの水素濃度分布の時間変化を予測することができる。 異なる降伏応力の複数の材料を想定し,それぞれの材料で過大荷重効果が水素凝集挙動に与える影響を数値的に明らかにした。この解析から,降伏応力や負荷応力,ヤング率,加工硬化係数といった基本的な物性に対して規則的に過大荷重の影響を予測することの可能性を見出した。これにより,安全な使用条件と危険な使用条件を簡易的に把握することができる。本研究ではこの危険な使用条件の分布を3次元マッピングすることで設計に利用しやすい成果としてまとめた。今後,これらの解析結果を実験的に検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
過大荷重効果を明らかにするための数値解析は当初の予定通りもしくはやや早く進んでいるが,過大荷重効果を実験で確認するための細かい条件設定に時間を要している。 定性的な比較を目的とした数値解析に対して,定量的な比較を目的としている疲労試験で理論の検証を行う計画であるが,過大荷重による影響がある場合とない場合の区切りが数値解析ほど明確に発現しないため,適切な実験条件を設定するための作業に時間を要している。 また,水素濃度分布を可視化するための硬度計測試験では試験装置の故障・整備などに時間を取られたものの,実験計画を再始動し現在遅れを取り戻すべく試験を継続中である。 総合してやや遅れ気味ではあるが,試験機器の整備や理論の再構築が必要な致命的な遅れではない。
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今後の研究の推進方策 |
過大荷重条件下での疲労試験条件の実施のため,数値解析も用いて実験条件を逆問題的に予測する予定である。これにより,試験条件の類推と確認を促進することができると考えられる。また,水素濃度分布確認のためのマイクロビッカース硬度計を用いて,試験片の材料物性の類推・確認を行い,計画の遅れを取り戻すことが可能と考えられる。 その他はおおよそ計画通りであるため,今年度の計画を変更せずに実験や解析の研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試験機の故障とその整備・修理により実験計画がやや遅れたため,計画との差異が生まれた。また,コロナ禍における学会のオンライン化や延期により旅費が大幅に節約された。特に予定していた国際学会(アメリカ合衆国開催予定)の延期が大きい。これは来年度開催予定である。 試験機の整備が終わり,計画が再始動しているので順次計画に近い形で予算を使用していく計画である。
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