研究課題/領域番号 |
21K03758
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研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
和田 明浩 大阪産業大学, 工学部, 教授 (60321460)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | FRP / RTM成形 / 超音波 / 振動付与 / 力学特性 |
研究実績の概要 |
今年度は,前年度の検討結果を踏まえ,成形型への超音波振動の付与方法の検討を行うとともに,新たに購入したレーザドップラ振動計により成形型の振動状態を評価した.前年度は一方向の樹脂流れを計測対象としていたが,今年度は成形型中央部から注入された樹脂が左右対称に流動する形式とし,成形型の片側のみに超音波振動を付与することで,樹脂含浸に与える局所超音波振動の効果を検証した.この際,振動子設置位置に掘り込み加工を行うことで,より強い超音波振動の付与を可能とした.はじめに,成形型の振動状態を調査するため,下型のみの場合と上下の型をボルト結合した場合で振動状態を比較した.その結果,下型のみの場合は加振点付近に加えて下型の固有振動モードに対応する位置で強い振動がみられたのに対し,上型がある場合は加振点付近のみに局所的に強い振動が付与できることを確認した.次に,本成形型を用いてRTM成形実験を行い,超音波振動の付与により樹脂の流動速度が増加することを確認した.また,前年度に確立した超音波による含浸モニタリング手法を用いた評価においても,超音波振動付与による含浸促進効果が確認された.さらに,成形型の振動様式と樹脂含浸促進効果が確認された領域の比較から,樹脂含浸促進に影響を及ぼす振動強度があること見出した. 以上のように,今年度は成形型への超音波振動付与方法の確立とその振動状態の評価を行うとともに,樹脂の流動および含浸に及ぼす超音波振動の影響を明らかにした.得られた結果は,繊維形態によらず同様の傾向を示したが,繊維含有率の高いガラスクロス材においてより振動の影響が顕著になる傾向が見られた.また,樹脂粘度が高い場合ほど含浸促進効果が高いことも確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,振動付与実験に適した成形型を新たに設計製作した.前年度は樹脂を一次元的に流動させる成形型を使用したが,型締め力などの実験条件により樹脂流動速度が変化し,振動有無による含浸促進効果の検証が不十分であった.そこで,成形型中央部から樹脂注入して左右から真空吸引する成形型を新たに製作し,成形型の片側のみに超音波振動を付与することで振動の効果を検証できるようにした.また,当初は圧電型振動子を成形型に押し当てた状態で振動付与を行っていたが,圧電振動子/成形型の接触面で摩擦熱が発生して樹脂温度が上昇するため,振動による樹脂含浸促進効果を検証することが出来なかった.そこで,圧電型振動子を成形型に接着して振動による摩擦熱の発生を防いだ.また,振動子取り付け部に掘り込み加工を施して成形材料により強い振動を与える構造とした. RTM成形実験に先立ち,新たに購入したレーザドップラ振動計により成形型の振動状態を評価した.計測の結果,上型と下型をボルト結合した成形型では,振動子付近のみに局所的に強い振動を付与できることを確認できたことから,型の左右での樹脂流動速度および含浸速度を比較することで超音波振動の影響を評価した.強化繊維にガラスマットとガラスクロスを用い,粘度の異なる樹脂を用いてRTM成形実験を行った結果,繊維含有率が高いガラスクロスと高粘度樹脂を用いた場合で超音波振動の効果がより顕著になることが確認された. 当初計画では,超音波振動の強度と樹脂含浸促進効果の関係を定量評価する予定であったが,成形型内での繊維配置や樹脂粘度のわずかな相違が実験の再現性を低下させ,定量評価には至らなかった.しかし,超音波加振点付近以外でも樹脂含浸促進効果が見られたことから,樹脂含浸促進に影響を及ぼす振動強度があることを確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に確立した成形型への超音波振動付与手法をベースとし,成形型の面内に複数の圧電振動子を配置してこれらを切り替えながら駆動することで,樹脂流れのコントロールを試みる.本実験では中央から樹脂注入する成形型を用い,放射状樹脂流れを計測対象とする.また,樹脂含浸過程および硬化過程における超音波振動の付与が成形品の力学特性に与える影響を調査するため,成形品の静的試験および疲労試験を実施する.ここでは,超音波振動を付与するタイミングを①樹脂含浸過程のみ,②樹脂硬化過程のみ,③樹脂含浸および硬化過程の3パターンで作製した成形品を評価対象とする.また,振動強度が成形品の力学特性に与える影響を調査するため,圧電素子への入力電圧を変化させて成形した試料を評価対象に加える.成形品の力学試験では,FRP内部での損傷進展挙動を詳細に観察し,超音波振動の付与が繊維/樹脂の界面強度に与える影響を調査する. 以上では上下両方の型を用いたRTM成形を評価対象としていたが,研究期間の最終年度にあたる次年度は,本手法のVaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)への適用性について検証する.VaRTMでは,上型の代わりに真空バックをかぶせ,内部を減圧することで大気圧加圧しながら成形する.上型を用いない場合は,圧電振動子による局所加振でも成形型の固有振動モードが励起される可能性が高いため,駆動する圧電素子の位置により励起される固有振動モードをあらかじめ計測した上で,振動付与の効果を検証する.最後に,以上で得られた知見を基にRTM成形およびVaRTM成形における適切な超音波振動付与条件を見出すことを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,2023年度予算の前倒し支払請求を行い,2021年度予算および2022年度予算と合算して高額備品(レーザドップラ振動計)を購入した.前倒し支払請求時に10万円単位での申請が必要であったため,高額備品購入後に端数金額が発生した.
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