研究期間の最終年度にあたる本年度は,RTM成形型に配置した複数の圧電振動子を駆動することで,樹脂流れの制御を試みた.また,成形型への超音波振動の付与がRTM成形品の力学特性に及ぼす影響を調査した.研究期間の1年目には模擬RTM成形型を設計製作するとともに,繊維束への樹脂含浸状態を超音波でモニタリングする手法を確立した.2年目には模擬RTM成形型の改良を行うとともに,レーザドップラ振動計を用いて成形型の振動様式を測定し,上型の有無による振動様式の相違を明らかにした.また,繊維含有率の高いガラスロービングクロスと高粘度樹脂の組合せにおいて,振動による含浸促進効果がより顕著になることを見出した.本年度は,前年度までの研究成果を踏まえて,RTM成形型の面内に格子状に8個の超音波振動子を配置した成形型を新たに設計製作し,駆動する振動子を選択することで樹脂流動の制御を試みた.また,成形品の力学試験を行うことで,超音波振動が繊維/樹脂界面強度に及ぼす影響を調査した. 本年度の研究結果より,RTM成形では樹脂流れの先端(フローフロント)が振動子付近にある場合に最も高い含浸促進効果が得られたが,その影響範囲は狭く効果的な樹脂流動制御には至らなかった.一方,赤外線サーモグラフィによる温度計測結果から振動子付近で局所的な温度上昇がみられ,これが強化繊維同士の摩擦によるものであることを見出した.このことから,超音波振動による繊維束への樹脂含浸促進効果には振動による濡れ性の向上に加えて,樹脂温度上昇による粘度低下の影響も含まれることを明らかにした.また,成形品の力学特性の調査から超音波振動の付与により初期損傷の発生遅れが観察されたが,SEM観察結果からは繊維/樹脂界面の破壊形態に明らかな相違を見出すことはできず,超音波振動付与による成形品の力学特性向上のメカニズムを解明するには至らなかった.
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