研究課題/領域番号 |
21K03760
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
野田 淳二 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (00398992)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 繊維強化複合材料 / はく離挙動 / 十字型試験片 / 結合力要素 / グリーンコンポジット |
研究実績の概要 |
近年,トポロジー構造最適化した複雑な繊維強化プラスチック(FRP)桁構造物が3Dプリンタによって成形され自転車等に実装される例や人工衛星のラティス構造体の実用等,桁構造がFRP構造物のより高比強度化に寄与している.桁構造体では多軸荷重状態は想定されないため,桁接合面のはく離挙動は未解明であった.本研究では,軽量・高強度化に優れる一方向複合材料(UD)を用いた桁構造体の健全性評価を可能とする多軸荷重状態での桁接合強度評価法を提案する.十字型UD桁試験片に曲げ負荷および面内せん断負荷を与えることにより,接合部の曲げ負荷下はく離挙動や面内2次元せん断型はく離挙動を呈する試験法を確立し,その場観察による損傷の定量化および結合力要素を用いた損傷進展シミュレーションを併用することにより,桁接合部のはく離挙動を解明することを目的とした. 2021年度は,軽量化,易接合と有利な熱可塑性母材樹脂の熱融着により接着した十字型UD桁試験片を用い,新規冶具を設計・製作して,曲げ負荷下はく離試験および面内2次元せん断型はく離試験を行った.金属のスポット溶接継手試験法(JISZ3137)の十字型引張試験法を応用し,曲げ負荷下におけるモードI型はく離挙動を呈する新たな試験法を提案した.また,桁接合試験片の面内はく離試験法は存在しないため,額縁試験片を用いた薄板せん断試験法を参考に,面内せん断負荷におけるモードIIおよびIIIの複合型はく離挙動を呈する新たな試験法を提案した.モードI型はく離試験では,桁長さにより,破壊モードの推移が起こることがわかった.さらに,複合型はく離試験では,初期損傷においてはせん断型のはく離が主要因であったが,はく離進展に伴いはく離面の摩擦抵抗が試験精度を下げていることがわかった.これらの知見は試験法すら存在しないため,桁接合部のはく離試験結果として非常に有意義であると言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は,軽量化,易接合と有利な母材樹脂の熱融着により接着した十字型UD桁試験片を用い,曲げ負荷下におけるモードI型はく離挙動を呈する新たな試験法と,面内せん断負荷におけるモードIIおよびIIIの複合型はく離挙動を呈する新たな試験法の開発を行った. 十字型UD試験片の作成には,亜麻/PPプリプレグを用いた十字型試験片を作成したが,成形する際,1枚同士では曲げ剛性が低く,桁の引張モードが主体的となる問題が発生したため,3枚積層同士を交差させて成形することでモードI型はく離挙動を発出させることに成功した.モードI型はく離試験法の開発については,荷重-変位関係と損傷観察結果を精査し,モードI型はく離挙動の桁長さ依存性を実験的に明らかにした. 次に,複合型はく離試験法の開発においては,2種類の工夫を行った.まず,十字型試験片の接合部の角にアルミニウム箔を成形時に挿入することにより予き裂を導入して,初期はく離発生時の荷重-変位関係に現れる不安定な挙動を抑制することに成功した.次に,十字型試験片の中央部に円孔を設けることで,はく離進展に伴うはく離面の摩擦や残存繊維の架橋の影響を低減し,複合型はく離挙動を主体的に評価する試験法へと改良した.その結果,円孔や予き裂の有無により安定した荷重-変位関係の発出および損傷進展様相が確認でき,再現性が高い面内せん断負荷におけるモードIIおよびIIIの複合型はく離挙動を呈する新たな試験法を開発できた.
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今後の研究の推進方策 |
最大応力説とき裂形成エネルギー論の観点から有限要素法内でき裂の発生および進展挙動を模擬できる結合力要素を導入して,本研究で提案した十字型はく離試験法の妥当性を評価する.結合力要素を桁接合部に導入した十字型UD桁有限要素法モデルを構築し,モードI型はく離挙動と,モードIIおよびIIIの複合型はく離挙動に対応した結合力および破壊靭性値を前年度得られた試験データとフィッティングすることで,観察された損傷と負荷形態,試験片寸法の関係を考察し破壊機構を解明する.まず,両端支持はりを2枚直交させた十字型UD桁モデルを作成し,桁接合部に2重節点からなる結合力要素を導入した有限要素法モデルを構築する.ソルバーにはANSYSver.19.0を使用し,局所座標系を用いて直交異方性を導入し,1/4モデルとして自由度を低減することにより2次要素を適用可能にして大変形解析を行う.曲げ負荷下での十字型UD桁接合部の破壊は,梁の幅や長さによりモードI型はく離挙動から梁の引張負荷に推移することが予測されるため,種々の梁の幅と長さ,厚さをモデル化し解析的に最適な桁幅や厚さを推定する.これらの検討から十字型UD桁試験片接合部のモードI型はく離挙動を説明可能な結合力と破壊靭性値を推定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度の申請時に購入を予定していたKEYENCE製ワイドレンジズームレンズは,損傷観察に必要な機能として長焦点高倍率のレンズであったことから,当時見積もりを取り,150万円を計上した.採択が決まり,レンズの選定を進めてデモを行ったところ,十字型試験片を用いたモードI型はく離試験片の桁部分のクリアランスに,レンズ先端直径が大きすぎて観察できない問題が発生した.これは鏡筒に光源を備えた構造であることから外すことができず,少し倍率が下がるが同様の焦点距離をもつ,KEYENCE製高性能低倍率ZレンズVH-Z00Tを選定し,902,000円で購入した.また,本試験法の妥当性検証のために,界面性状が異なる接合界面を評価することを目的にセルロースナノファイバー混入界面を形成するために,プロセスホモジナイザーPH91-3を追加で購入した.その結果,48万円程度の次年度使用額が発生した.この追加した検証実験を実施するために,現状では高価なドライセルロースナノファイバーの購入や実験と解析を実施する大学院生の謝金が必要となるため,次年度使用額を充てる.
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