本年度は,当初の予定では三次元異方性弾性体中の非線形三波相互作用の数値シミュレーションを実施する予定であったが計算コストが想定以上に高く二次元問題においても計算に数日を要することがわかった.そこで,非線形三波相互作用により生じる波動場を理論的に計算する方針に変更し,昨年度に導出した共鳴条件の妥当性および和・差周波数成分の発生挙動を検討した. 異方性材料をひずみエネルギー密度においてひずみの三次の項まで考慮した超弾性体としてモデル化し,弱非線形性の仮定のもとで有限変形理論の基礎方程式に摂動法を適用することで,基本波と和・差周波数成分の伝搬を支配する線形化方程式を導出した.二つの平面調和波がある有限な体積領域内でだけ相互作用を起こすと仮定すると,和・差周波数成分の支配方程式は基本波の変位場から定まる既知の非斉次項を持つ線形非斉次方程式に帰着する.本研究ではその解を異方性弾性体の時間調和グリーン関数を用いて陽的に求めた.立方晶材料中で二つの基本波の周波数と伝搬モードを固定したうえで,基本波交差角度を変化させて和周波数成分を計算した結果,共鳴条件を満たす交差角度で和周波数成分の振幅が大きくなるような結果が得られ,共鳴条件の妥当性が確かめられた.また,共鳴条件が満たされる場合に和周波数成分の振幅が基本波交差領域の体積に比例して単調増加する結果も得られた.さらに,和周波数成分が基本波交差領域から基本波波数ベクトルの和で表される方向ではなく,和周波数成分の群速度方向に支配的に発生することもわかった.昨年度までと今年度の研究を通じて,異方性弾性体中の非線形三波相互作用の基礎理論(和・差周波数成分を共鳴的に発生させるための条件や和・差周波数成分の波動場の計算手法)を構築することができ,これらは新しい超音波非破壊評価原理の構築のための理論的基盤になると期待される.
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