研究課題/領域番号 |
21K03781
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
清水 一郎 岡山理科大学, 工学部, 教授 (10263625)
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研究分担者 |
竹元 嘉利 岡山大学, 自然科学学域, 准教授 (60216942)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 機械材料 / マグネシウム合金 / 塑性変形 / 2Dセル状構造体 / 変形双晶 / ひずみ勾配 |
研究実績の概要 |
本研究は,マグネシウム合金の組織と負荷様式および負荷方向に依存して生じる特異な力学的挙動を定量的に理解し,得られた結果から,所望される機能を最大限に発現する2Dセル状構造体設計手法の確立を目指すものである. 2022年度は2年目として,初年度後半に考案した櫛形試験片を主対象とし,AZ31マグネシウム合金製2D単位セル構造の設計パラメータを段階的に変えた試験片をレーザー加工によって作製して引張り曲げ試験を行い,各設計パラメータがセル構造の剛性や荷重-変位関係,応力(ひずみ)集中に及ぼす影響を調べた.その際,変形が集中する曲率部周辺に微細なドットパターンを設け,顕微鏡観察により局所的なひずみ分布の評価も実施した.同時に弾塑性有限要素法解析も併用し,等方性を仮定した解析結果との比較を行った.得られた結果から,セル幅と曲率の関係が剛性に影響を及ぼすこと,曲率部に適切な長さの直線部を設けることによって応力(ひずみ)集中が低減され塑性変形能が向上すること,ただし直線部長さが適切範囲を超えると曲率反転などの新たな問題が生じることなど,2Dセル構造の最適設計に極めて有益な知見を蓄積することができた.これらの知見は,既に一部を学会にて報告している.また,マグネシウム合金製試験片の実験結果と解析結果の比較から,変形双晶の活動が荷重-変位関係および塑性変形能に影響を及ぼすことがわかった. 以上の2D単位セル構造に関する研究に加え,マグネシウム合金角棒材に対して,曲げと引張りの割合を段階的に制御可能な新しい引張り曲げ試験装置の製作を試みた.まだ幾つか課題は残っているものの,ほぼ想定に近い引張り曲げを付与可能なことを確認している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の主要な研究計画は「①マグネシウム合金製2Dセル構造体の変形状態および力学的性質評価」「②2Dセル構造体の最適化に寄与する設計パラメータの調査」「③試験結果と解析結果の比較に基づく設計手法の検討」の3点である. ①および②について,AZ31マグネシウム合金板材からレーザー加工によって切り出した2D単位セル構造体を有する櫛形試験片の採用により,セル構造体において,ひずみ勾配を伴う塑性変形状態を詳細に観察することが可能となった.その際,微細なドットマークを描画することによって,局所的なひずみ分布を評価するとともに,各種設計パラメータが変形状態および力学的性質に及ぼす影響について多くの情報を得ることができた.特に,セル幅と曲率の調整により,セル構造の対称部付近に生じる圧縮から引張りに至るひずみ勾配を制御できること,その制御が変形双晶と関連して剛性および荷重-変位関係に影響を及ぼすことは,セル構造の設計指針として有用と評価できる.特に,曲率部に適切な長さの直線部を付与することによって応力(ひずみ)集中が低減される知見は,2Dセル構造体の塑性変形能向上に大きく寄与する重要な成果である. ③について,有限要素法解析結果と試験結果を,力学的特性と局所的な変形状態の両面から比較することにより,現状での解析に基づく2Dセル構造設計の可能性と課題について基礎的な情報を得ることができた.加えて,新たに曲げと引張りの割合を段階制御できる試験装置の製作にも取り組んでおり,得られた成果はマグネシウム合金製構造体の設計に役立つと期待される. 以上の通り,本研究は今のところ,ほぼ計画通りに遂行できていると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は今のところほぼ予定通りに進行しており,目標達成に対して大きな問題は生じていない.2023年度は最終年度として次のように研究を推進する計画である. (1)AZ31マグネシウム合金板材を素材として,2022年度までに得られた単位2Dセル構造に関する設計パラメータの検討結果に基づき,最適設計指針の確立を試みる.具体的には,マグネシウム合金が有する力学的特異性である引張り圧縮非対称性および負荷経路依存性を考慮しつつ,剛性向上と塑性変形能向上を個別あるいは両立目標とした形状最適化を目指す.その際,現有のマグネシウム合金圧延材以外に,新たに強い集合組織が期待されるマグネシウム合金押出し材から切り出した板材を素材に加える.これらの結果から,目標を達成するための設計パラメータの同定指針を明らかにすることを試みる. (2)(1)で得られた成果に基づき,単位セルを連結させたマグネシウム合金2Dセル構造体を加工し,構造体全体としての塑性変形挙動を調べる.加えて,負荷方向が途中で変化する際の塑性変形挙動も調査する.同時に有限要素法解析を行い,実験結果との比較によって,構成関係の修正が設計指針に及ぼす影響について検討を加える.これらの成果により,解析に基づく設計手法が,マグネシウム合金2Dセル構造体の変形分布や変形履歴を予測可能であることを検証する. (3)(2)で検証した設計手法を用いて,マグネシウム合金2Dオーセティック構造体への適用を試みる.既に2Dオーセティック構造体については,基礎的ではあるが検討を開始している.得られた研究成果は,2Dセル構造体をマグネシウム合金の生体吸収性を活かした医療機器を始め,各種分野での実用へ貢献するものと期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果について学会発表を行ったが,一部はオンライン開催されたため旅費が不要となったことに加え,予定していた会議に参加が叶わなかったこと等が影響している.また,年内購入を予定していたマグネシウム合金押出し材について,複数の入手先候補からの情報収集や材料選定に時間を要したため,次年度の購入に移行したことなどが,多額ではないものの次年度使用額が生じた主な理由である. 2023年度は多くの学会が実地開催に移行する可能性が高いことに加え,継続して試験を行うために消耗品類の購入が必須であり,次年度使用額はそれらに用いる計画である.
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