研究課題/領域番号 |
21K03783
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研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
黒田 大介 鈴鹿工業高等専門学校, 材料工学科, 教授 (70343879)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Ni基耐熱合金 / レーザー積層造形法 / ミクロ組織 / 機械的特性 / 残留応力 / 高温環境曝露 / アンモニアガス |
研究実績の概要 |
本研究では、レーザー積層造形法(SLM)で製造した625合金製の実機スラスタの疲労耐久性におよぼす残留応力、結晶異方性、内部欠陥、高温特殊環境(温度、雰囲気)の影響を定量化し、疲労限度予測の基礎データとして蓄積する。 初年度は、次年度以降の疲労特性試験片ならびに実機スラスタの製造条件を検討するために、3つの積層方向(引張方向に対して平行(V)、直角(L)、62°傾斜(S))で板状試験片を作製した。また、表層部分のみ積層条件を変化させたLαとVαを作製した。さらに、一部の試験片にはひずみとり熱処理を行い、Sh、Lαh、Vαhとして区別した。試験片に実機スラスタの燃焼環境を模擬した熱処理(NH3ガス中で900℃、24 h保持後空冷)を行い、ミクロ組織と機械的特性の変化を検証した。 積層方向が引張軸に対して直角になるとともに、0.2%耐力と引張強さは低下し、破断伸びは増加した。Vαhは、ひずみとり熱処理後も931 MPaの引張強さと25%の破断伸び、NH3ガス中での熱処理後も836MPaの引張強さと35%の破断伸びを示した。NH3ガス中で熱処理したVαhの引張特性は、同様の熱処理を行った625合金の溶製材よりも約15%低かった。いずれの積層材のミクロ組織もNH3ガス中での熱処理により等軸組織に変化し、δ相が析出したが、窒素や水素による脆化はなかった。NH3ガス中での熱処理後には、残留応力が圧縮側に増加した。開発したRSP試験装置により一部の積層材についてArガスを満たした800℃の高温環境中での引張特性を評価した。本試験片の室温での引張強さと破断伸びは900 MPa、43%であったが、800℃でのそれらの値はそれぞれ737 MP、44.2%であった。SLMで製造した625合金の造形体は、実機スラスタの燃焼環境においても十分な力学的強度を維持することを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の室温、高温環境における特性評価により、次年度以降の室温、高温での疲労特性評価と実機燃焼試験に用いる造形体の製造条件を決定することができた。SLM造形体の機械的特性に影響する残留応力をcos-α法を用いることで高精度に評価できたため、機械的特性と積層条件、残留応力の関係を初年度に把握することができた。一方、800℃の高温引張試験時にRSP試験装置の試験片固定治具の強度が低下したため、治具の素材と取り付け部分の仕様を変更した。この対応に時間を要したため、800℃での高温引張試験についてはNH3ガス中での熱処理後にも良好な引張特性を維持できた一部の積層材のみ実施した。なお、他の積層材の高温引張特性は現在も継続評価しており、次年度予定している室温、高温環境中での疲労試験は計画通りに実施できる見込みである。 以上のような進捗状況より、本研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に取り組んだ625合金造形体の室温、高温環境中での引張特性評価により実機スラスタの製造条件は概ね決定した。 しかし、本研究の目的はSLMで製造した625合金製の実機スラスタの疲労耐久性におよぼす残留応力、結晶異方性、内部欠陥ならびに高温特殊環境の影響を定量化することであるため、初年度に作製した各積層材についても優先度を考慮して室温、高温環境中での疲労試験をRSP試験装置により実施する。本研究で作製した積層材において、NH3ガス中での熱処理により圧縮方向の残留応力が増加すること、ミクロ組織の形態が等軸組織に変化すること、熱処理後でも機械的特性の低下に寄与する窒化物が析出しないことが明らかとなったため、高温NH3ガス中での低サイクル領域と高サイクル領域での疲労寿命におよぼす残留応力、析出物を含むミクロ組織の影響の詳細な検証が重要である。そこで、RSP試験装置から疲労試験片を取り外すことなくcos-α法を用いてin-situで残留応力測定ができるように試験装置の改良を行うとともに、疲労中断試験により、XRD、EBSD、STEMを用いてミクロ組織を詳細に解析し、ミクロ組織と疲労特性との関係を検証する。また、同一のSLM積層条件にて製造した疲労試験片と燃焼試験後の実機スラスタから採取した試験片のミクロ組織をXRD、EBSD、STEMにより詳細に比較・検証して疲労限度予測式を策定し、実機スラスタの造形プロセスにフィードバックし、現状の2倍以上の寿命をもつスラスタの実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大防止の観点から共同研究機関との打ち合わせをオンラインで実施した。このため、旅費の支出がなかった。当該助成金については、次年度の打合せ旅費とあわせて使用する。
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