本研究は,AI技術を用いて旋削時に同時複合的に発達する5種(すくい面摩耗,平均逃げ面摩耗,コーナー摩耗,主切れ刃側境界摩耗,副切れ刃側境界摩耗)の工具摩耗量を,旋削中の切りくず裏面の温度分布の画像のみから同時に推定するシステムを構築することを目的としている.AI推定システムは,教師ありの機械学習の回帰分析であり,オープンソースの一つであるTensorflow+Kerasで構築した. 本年度は,上記の各種切削条件における切りくず裏面の温度分布から,各所の摩耗量を高い精度で予測するAIモデルを検討した.本研究では,動物の脳内では,目から得た視覚情報を複数の受容野が同時かつ並列に処理していること,を参照しモデル設計の指針とした. 数種のモデルを構築し予測精度を検討した結果,入力(2次元配列の画像データ)を,畳み込み核のサイズが異なる3種類の畳み込み層群(バッチ正則化層,畳み込み層,活性化層,プーリング層を一組みとした層を,スキップ接続を含めて多段に積層したもの)を並列に並べた層群に入れ,統合した後,別の畳み込み層群に入れ,その後,1次元配列のデータに変換し,階層型ニューラルネット層に通した後,5系統の階層型ニューラルネット層群に分岐し,それぞれの系統が1つの出力を出す,というモデルが,平均絶対値誤差10 %(すくい面摩耗量は5.9%)と最良であった. 各出力に対する最終段の畳み込み層でのヒートマップを検討した結果,さらなる検討の余地はあるが,いずれの摩耗も,切削条件によらず温度が一番高い,副切れ刃上の切りくず末端付近に強く反応しているが,逃げ面摩耗や境界摩耗は,切りくず両端にも反応しており,摩耗種によって切りくず上の反応に濃淡があることが分かった.これより,ヒートマップを詳細に分析することで,各種の摩耗量が切削温度に与える物理的な影響を明らかにできる可能性があることが分かった.
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