研究課題/領域番号 |
21K03794
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研究機関 | 静岡理工科大学 |
研究代表者 |
後藤 昭弘 静岡理工科大学, 理工学部, 教授 (00711558)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 電解 / ミーリング / 超硬合金 / コバルト |
研究実績の概要 |
本研究では、電解加工を併用したミーリング加工(以下、電解複合ミーリングと呼ぶ)の開発を進めている。本方法は、超硬合金の成分であるCoを電解により溶出させ、Coが溶出して脆くなった部分を絶縁性の切れ刃で削り取る方法である。これまでに本技術で加工効率を飛躍的に高めることがわかってきている一方で、加工の安定性が得られない場合が出てくることがわかり、本方法の加工原理が、これまで考えていたような単純なものではないことがわかってきた。そこで本研究では、電解複合ミーリング加工において、その加工原理を詳細に調べ、高効率な加工を継続できる技術を開発し、実用的な技術に高めることを目指している。 本方法では、導電性の本体と絶縁性の切れ刃を持つ工具を用い、導電性の本体により電解を起こして超硬合金表面のCoを溶出させ、Coが溶出して脆くなった部分を導電性の切れ刃で削り取る。しかし、その後の研究により、電解反応により溶出させることができるCoの深さはせいぜい2~3µm程度であり、そこまでは高速にCoが溶出するが、それ以降は急速に溶出速度が遅くなることがわかった。 今年度は、本方法の加工原理の詳細について、調べた。まず、これまで方法で得られた加工速度が、理論的に妥当であるかについて調査した。極間距離とその時の電解の電流密度を調べ、その結果に基づき、加工中に流れる電解電流を計算により求めたところ、ほぼ一致することがわかった。また、この結果から、これまでのような加工方法では、目的とする高速加工の実現が困難であることもわかった。そこで、高速加工を実現するために、重切削の方法を試み、高速加工の可能性を示すことができた。 さらに、本方法の実験のための加工装置を立ち上げることができ、加工現象の調査、問題解決のための方向を明確にできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度前半は、本方法の加工原理の調査を進めた。本方法は、ミーリング加工であるので、工具と工作物が対抗しながら、加工が進む。これまで行っていた浅切込みの加工では、高速加工実現のために電解電流を上げることが困難であったが、その理由を、加工中の工具と工作物との位置関係から説明した。まず、電解の際の、極間距離とその時の電流密度との関係を調べた。極間距離が小さいほど電解電流密度は大きく、極間距離が大きいほど電解電流密度は小さくなる。その結果を用いて、加工中の工具と工作物との間に流れる電解電流の値を計算すると、ほぼ実際の加工中の電解電流と合致することがわかった。しかし、同時に、これまでのような浅切込みの加工方法では、電解電流を上げることができず、高速加工ができないということも明らかになった。 そこで、電解電流を上げるために、加工中の工具と工作物の対向面積を大きくする方法を検討した。半径方向の切込み量を工具の半径程度以上にし、加工を行うと電解電流を数10A程度にすることができ、高速加工の可能性を示すことができた。 これまでの加工試験は、一般のフライス盤を改造して行っていたが、高精度な加工試験が実施できる加工装置を立ち上げることを計画していた。高精度位置決めテーブル、高精度スピンドル等を購入し、装置を作り上げる計画であったが、榎本工業株式会社の支援により、加工装置を早々に立ち上げることができた。本装置を用いて、加工実験を行い、電解ありなしで可能な加工速度を比較した。電解液のフラッシング条件、工具の形態など、未検討の要素も多く、高速加工とは言えない範囲での加工ではあったが、電解ありの場合、なしの場合の5倍以上の送り速度で加工ができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度の成果として、電解なしの場合と比べて5倍以上の速度で加工ができたが、電解電流から計算できる加工速度に比べて、加工速度が小さいこともわかった。令和4年度は、その原因がなにか、また、流れた電解の電流は何に使われているのかを調査することから始める。加工中の極間の状態をさらに精度よくモニターすることを検討する。電解の状態、加工の状態等のモニター方法を考案する。そのモニター方法に基づき、電解条件、ミーリングの加工条件等の加工条件を変化させた場合の加工現象を調査する。条件により、加工ができる場合、できない場合等、いろいろな現象が起きると考えられる。そのそれぞれの現象を理解し、安定して加工を進めるための条件を検討する。また、加工後の工作物の状態、工具の状態を分析し、加工中にどのような反応が起きているかを明らかにする。その結果に基づき、必要であれば、工具の形状や構造についても検討する。また、加工の制御方法について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症の流行のため、予定していた出張がほぼできなかったため。
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