研究課題/領域番号 |
21K03804
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
喜成 年泰 金沢大学, 設計製造技術研究所, 教授 (90195321)
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研究分担者 |
立野 大地 金沢大学, 設計製造技術研究所, 助教 (30714159)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 繊維強化複合材料 / 組紐構造 / プレス成形 / 熱可塑性樹脂 / 軸糸 / 炭素繊維 / マルチブレイダ |
研究実績の概要 |
本研究の申請時には、一方向に並べた炭素繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたシート素材をテープ状に細く裁断したテープ(以下CFRTPテープ)を用いて、組紐成形によって中空パイプを編組し、その後加熱加圧によりFRPとして成形する予備実験により、4点曲げ試験による曲げ強度400MPa、弾性率50GPaを示す組紐製造条件を見出し、CFRTPの製造方法としての有望性は確認できていた。これに対して、組紐構造およびプレス成形のメカニズム解明と組紐の組糸経路を自由に設定できるマルチブレイダを用いた工程改善により2.5倍以上の曲げ強度と弾性率を示す製紐条件およびプレス条件を見出すことを目標としている。 初年度の問題点であった「入手可能な市販のCFRTPテープの厚みが0.044mmと薄いため、数層重ねただけではじゅうぶんな厚みを有するFRP製品が得られない」状況を改善するため、ポリアミド(PA)母材のCFRTPテープに加え、テープの厚みが0.15mmのポリプロピレン(PP)母材のCFRTPテープによる組紐・プレス成形に取り組み、曲げ強度500MPa、弾性率80GPa以上を示す組紐・プレス条件を見出した。加えて、マルチブレイダにおいて多数の軸糸を重ねて編組するために必要な機構を導入し、組紐層1層の厚みを増加させることもできた。PA母材のCFRTPテープによる機械的性質の到達点は前年度に達成した曲げ強度800MPa、弾性率100Gpaのままだが、今年度の「製造範囲の拡張」の成果と組み合わせて、最終年度では曲げ強度1,000MPa、弾性率125GPa以上を示す製紐条件およびプレス条件を見出す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の申請時には、CFRTPテープを用いて、組紐成形によって中空パイプを編組し、その後加熱加圧によりFRPとして成形する予備実験により、曲げ強度400MPa、弾性率50GPaを示す組紐製造条件を見出し、CFRTPの製造方法としての有望性は確認できていた。 令和3年度には製紐条件に工夫を加え、単純に組紐の層を重ねていく際に上層と下層との間にCFRTPテープが折れ曲がって重なることのないように、組紐1層の被覆率(カバーファクタ)を考慮して製紐条件を決定する手法を導入した。また、中空パイプの曲げ強度や弾性率を向上させるためにはパイプの軸方向に挿入する糸(軸糸)を可能な限り多く配置することが有効であることを定量的に明らかにし、これにより、曲げ強度800MPa、弾性率100GPaを示す組紐製造条件を見いだした。 令和4年度には、マルチブレイダに多くの軸糸を挿入可能な機構を導入し、また、CFRTPテープを重ねてスピンドルの給糸機構に供給する装置を装着することにより、テープの厚みが0.044mmと薄いPA母材のCFRTPテープを用いた場合であっても組紐層1層の厚みを0.3mm程度まで増加させることができた。加えて、テープの厚みが0.15mmのポリプロピレン(PP)母材のCFRTPテープによる組紐・プレス成形に取り組み、曲げ強度500MPa、弾性率80GPa以上を示す組紐・プレス条件を見出した。PA6は吸水性・吸湿性が大きく、寸法安定性や機械的性質の観点から必ずしも万能な素材とは言えないため、この製造方法の利用範囲拡大のためには有益な成果が得られたと考えている。以上の成果について口頭発表を6件実施し、論文を2編投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に実施したPP母材のCFRTPテープを用いた組紐・プレス成形は用途の拡大の観点からは有意義であったが、当初の目標値である曲げ強度1,000MPa、弾性率125GPaを得るためには、やはり母材と強化繊維の密着性に優れると言われるPA母材のCFRTPテープに焦点を集中し、組紐組織や製紐条件について系統的に実験を繰り返す。すなわち、プレス成形後の試料の表面および断面観察から、プレス成形によりボイドがなく、糸のねじれがない試料が作成できていることがわかっているので、プリフォームの製造条件(組紐製造条件)とCFRP製品の強度との関係を明らかにすることに重点を移す。 本研究の最終年度である令和5年度においては、パイプの中で曲げやねじりの応力が最大となる最外層部分に3重に交錯構造を有するCFRTPパイプ試料を作成する。加えて試料断面に占める軸糸の割合を増加させる。これらの具体的手法については令和3年度、4年度に実施した実験により、既に準備が整っている。組紐構造中に軸糸を挿入可能なスペースは限られているが、1カ所の候補スペースに多くの軸糸を集中して挿入することが適切か、可能な限り軸糸を分散させて組糸の屈曲を抑えることが有効か、試料の断面観察を加えることによって、幾何学と力学からのアプローチとなる。以上の結果を総合し、単純に組紐層を重ねて成形したパイプとの強度や弾性率を比較し、層と層の間の締結による効果を実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の初年度にはコロナ感染拡大が収束しているものと想定し、成果公表を兼ねた調査旅費を計上していたが、国内での感染拡大の収束がじゅうぶんでなかったため、海外出張を控えた。最終年度においては、欧米に加え、国内でのコロナ感染拡大も収束しているため、成果公表のための海外出張を実施予定である。 加えて、初年度にブレイダのパーツであるスピンドルを多数購入予定であったが、これは他の予算により手配ができた。一方、組紐製品を熱間プレスするための金属製外型や内型であるシリコン樹脂製品の手配のために、当初想定していた以上に時間と経費が必要となることがわかってきた。最終年度の試作においても組紐製品を熱間プレスするための金属製外型や内型であるシリコン樹脂製品の手配のために経費を配分したい。
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