溶接・接合技術は産業分野において必要不可欠な基盤技術であり,そのプロセスから検査に至る製造工程全般を対象として高能率化や高度化が常に求められている.アーク溶接は代表的な接合技術の一つであるが,部材の加工精度やワイヤの曲がりなどに由来する様々な不可避の外乱が影響し,溶込み深さや欠陥の有無といった溶接品質の不安定化が生じるのが問題となっている.本研究はそうした溶接品質の不安定性に対し,溶接中の溶融池画像を入力,溶接品質を出力とした深層学習モデルを構築してインプロセスモニタリングによる溶接品質の可視化と予測を実現することを目的としている. 従来成果として,我々はレ型開先のマグ溶接においてギャップ変動や板継部を模した試験片に対する溶込み変動を深層学習モデルにより推定可能であることを明らかにしており,溶接長の殆どの部分に対して,誤差1 mm以下で溶込み深さが推定可能であると報告している.本研究では,機械学習の活用上,問題となることもあるBlack Box化に対応すべくモデルの判断根拠を可視化すること,同機械学習モデルを水平展開し,種々の問題への適用性を評価することなどに取り組んだ.また,モデルの推定精度向上のため,入力データの様々なパターンを試行した.その結果,取得した画像に対して,その狙い位置直下の溶込みを対応させるよりも少し後方の溶込みを対応させる,Time Shiftを行うと高精度推定となることを見出した.これは溶接線方向の断面観察からも考察されうる金属の溶融凝固現象そのものに基づく対応と見られる.また,アーク画像から初層底の融合不良を推定するモデルにおいては,入力画像の準備の仕方で欠陥推定精度が変わることも見出した.本研究では,AIを用いる溶接品質モニタリングには溶接アーク現象の理解がまず必要であり,入出力関係を吟味することによって高精度な推定が可能となることを示した.
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