研究課題/領域番号 |
21K03814
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
渡邊 誠 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 分野長 (00391219)
|
研究分担者 |
草野 正大 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 研究員 (60822583)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 三次元積層造形 / 形状記憶合金 / 超弾性 |
研究実績の概要 |
Ti-Nb合金は新たな生体用形状記憶合金,超弾性合金として,医療分野での実用展開が期待されているが、加工性が低いという課題がある。一方で、近年、注目を集めるレーザ積層造形プロセスは、難加工材であっても、従来プロセスでは不可能な複雑形状を作製することが可能である。そこで、本研究ではTi-Nb合金の製造プロセスとしてのレーザ積層造形プロセスに着目し、レーザ条件や熱処理条件が、造形材の組織や形状記憶特性へ与える影響を明らかにすることを目的としている。 2021年度はレーザ走査速度、および隣り合うレーザの操作間隔を変化させ、造形の可否、および得られる組織の調査をまず行った。さらに、造形後に容体化処理を実施し、後処理が組織へ与える影響についても調査した。また、それぞれの条件について、引張試験片形状に直接造形した試料を作製し、負荷除荷サイクル試験を実施することで、形状記憶特性あるいは超弾性挙動について分析した。この結果、適切なプロセス条件により、非常に緻密なTi-Nb造形体が得られること、またエネルギー密度が高くすぎるとガス欠陥の生成、および粒界での凝固偏析部においてα相の析出が造形時に生じることが明らかとなった。このα相の析出は容体化処理により、より顕著となった。負荷除荷サイクル試験では、ある条件の試料では造形体において超弾性挙動が確認され、再現性も確認された。レーザ造形プロセスによるTi-Nb造形材で超弾性挙動を確認することができ、画期的な成果を得ることができた。一方で、従来の鋳造材で報告されている超弾性回復ひずみと小さく、その要因について次年度以降明らかにしていく予定である。 また、計画に沿って、有限要素解析によるレーザ走査時の温度場予測、冷却速度予測モデルを構築した。こちらについても次年度以降、組織形成メカニズム解明へ適用を進めていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に沿って、十分に緻密なTi-Nb合金のレーザ積層造形体を作製するプロセス条件範囲を見出すことができた。さらに、各レーザ条件で得られた試料について、造形方向に平行な面、および垂直な面での、断面組織をSEM EDS, EBSDで詳細にすることが出来、レーザ入熱が大きくなるにつれ、積層造形プロセスならではの凝固偏析に基づくアルファ相析出が生じることを見出した。このようなアルファ相析出が、強度特性あるいは形状記憶特性にどのような影響を与えるかについて、今後明らかにしていく必要がある。 また、得られた造形材について引張による負荷除荷試験を適用し、負荷時のマルテンサイト変態の発生、除荷時の回復ひずみに着目して、形状記憶特性および超弾性挙動について調査した。その結果、適切な条件で造形された材料では、負荷時に非線形な応力-ひずみ挙動を示すとともに、除荷時に回復ひずみを明瞭に示すことが認められた。しかし、鋳造材などで期待されるほど、明確な変態点はいずれの試料においても観察されなかった。また、除荷時の回復ひずみについても、鋳造材で報告されている値と比較して小さな値であった。今後、この要因を明らかにしていく必要がある。どのようの傾向は溶体化処理材でも認められた。熱処理による均質化により、より明瞭な相変態が期待されたが、それほど顕著ではなかった。一つの要因として、固溶している酸素の濃度が高いことが考えられることから、次年度に化学分析を行い、その影響について解明を進めていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は引き続き、レーザ条件と熱処理条件、組織、形状記憶特性の相関について調査を進める。特に、3D造形ならではの凝固偏析に基づくアルファ相の析出挙動と、レーザ条件および熱処理との相関について調査を進め、さらにマルテンサイト変態や超弾性回復ひずみに与える影響について明らかにする。熱処理についても、時効熱処理や焼きなまし処理など異なる熱処理を適用することで、超弾性挙動の最大化を目指す。また、形状記憶合金において重要なマルテンサイト変態温度、逆変態温度を示差走査熱量計(DSC)により評価し、これらのプロセス条件や組織との相関を解明する。組織形成を理解する上で、実際の温度や冷却速度の推定が重要であることから、本年度確立した数値解析による温度場解析を適用し、結晶粒径や方位分布などの組織特徴量との相関についても解明していく。
|