研究課題/領域番号 |
21K03820
|
研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
呉 志強 滋賀県立大学, 工学部, 教授 (10274333)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 鼓膜穿孔 / 鼓膜再建 / 形状最適化 / 固有振動数 / 聴覚特性 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
鼓膜穿孔は中耳炎や外傷により引き起こす中耳の病気一種である。治療するときに、患者自身の耳介などから軟骨を採取し、薄板にスライスして鼓膜の穴を塞ぐ術式が時々用いられる。この方法では、孔があるときに比べ聴力がある程度回復するものの、ヒト本来の聴覚特性に十分に回復できない場合がある。申請者は聴力回復が不十分の原因が、鼓膜本来の材料定数と軟骨の材料定数に大きな差があるためであると考えている。軟骨は鼓膜に比べ、両者の密度が近いにもかかわらず、ヤング率が鼓膜のヤング率の10分の1にも満たず、すなわち剛性不足である。この問題に対して申請者は、従来の均一厚さの軟骨板を使用する代わりに、厚さ方向に形状最適設計を行い、質量を増やさずに剛性を上げることが可能であると考えた。 本研究では、まずCTスキャンのデータを基に、中耳の機械的振動を数値的に計算するための有限要素モデルを構築した。このモデルを利用し、軟骨板のヤング率が原因で、健常時の中耳に比べ、固有振動数が低下し、それにより、聴覚特性曲線におけるピーク位置の周波数が低下していることを確認した。そして、この状況を改善するために、軟骨板の形状設計において、板厚分布をリブ状のパタン化設計するのと、形状最適設計の手法を導入し、低下した固有振動数を上げる二つのアプローチを試みた。いずれも改善が可能であることが確認できた。 また、今後のために、境界上に粘性減衰を有する場合の形状最適化の手法の開発を行った。本研究で用いる有限要素モデルでは、計算量が合理的な範囲内になるように、内耳の構造の詳細を省略し、代わりに内耳の影響を粘性ダンパーで近似した。今までは粘性ダンパーを有する場合の効率的な形状最適化の手法がないため、その手法の開発を先に行った。簡単なモデルを用いて有効性を確認した。この成果は機械部品や、構造の形状最適化の一つの手法に発展する可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、CTスキャンのデータを基に構築した有限要素モデルを検証し、他者の測定結果と比較して有効であることを確認した。そして、軟骨板の板厚分布をいくつかのパタンに設定して検証した。パタン化した設計はある程度聴覚特性が改善できることを確認した。さらに、軟骨板を使用するときの固有振動数の低下、アブミ骨底板の振動のピーク位置での周波数の低下問題に対して、機械部品の形状最適化の手法を導入し、形状最適化システムを構築した。このシステムを利用し数値解析した結果、固有振動数を上げることができ、周波数応答曲線から、聴覚特性の改善にも効果があることが確認できた。また、今後のために、境界上に粘性減衰を有する場合の形状最適化の手法の開発を行った。これは機械部品や、構造の形状最適化にも応用できるものである。 以上の理由で、おおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果を基に、令和4年度の研究は次のように予定されている。 形状最適化プログラムを作成し、広い周波数帯域において、軟骨板の最適な板厚分布を設計する手法を開発する。まずは、ターゲットとする周波数帯域において、聴覚特性を示すアブミ骨底板の垂直方向の変位曲線が本来の変位曲線との最小二乗差を目的関数として、形状最適化するための形状勾配関数を導出する。広周波数帯域の解析が効率的になるように、形状勾配関数をモード解析の解を利用して計算できるようにする。そして、導出された形状勾配関数を用いる最適化のプログラムを作成し、汎用有限要素解析のソフトと連携した最適化のシステムを構築する。形状最適化解析には、大規模モデルでの形状最適化が得意で、扱いが簡単なH1勾配法(力法)を利用する。さらに、最適化した形状の周波数応答曲線を評価し、重要周波数帯域での寄与率の高い変形モード(固有振動モード)に対して、必要に応じてその周波数(固有振動数)を昨年度開発した手法で個別調整する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由 配分金額では、当初計画していた汎用有限要素法ソフトNX-Nastranを購入するには不足しているので、別の解析ソフト、Altair Units - Mechanical Engineerに切り替えたためである。 使用計画 今年度の予算と合算して、Altair Units - Mechanical EngineerのUnits数を増やすことや、音響解析ソフトAcrtranの購入に使用する。
|