研究実績の概要 |
力学的感性を対象物体内部の力学的負荷の状態を直感的に把握する能力であるととらえ,位相最適化形状を「力の流れ」の具体的表現の一つとしてとりあげた.最終年度では,一様密度を持つ設計領域が,位相最適化によって課せられた境界条件に応じた最適形状を示す密度分布に遷移していく過程に注目した.深層学習による次元圧縮手法の一つである変分オートエンコーダ(Variational Auto Encoder, VAE)を利用し,訓練データとして様々な境界条件のもとで生成された位相最適化形状およびその過程の密度分布遷移を表す画像を与えた.この結果,3次元の潜在変数空間に境界条件と最適化過程の進度が表現されていることが確認された. 研究期間全体の成果は次の通りである.構造物の美観に関する文脈や設計教育においては「力の流れ」という概念が広く用いられ,「力学に関し,無自覚的・直感的・情報統合的に下す印象評価判断能力」とされる力学的感性の理解の手がかりとなる.構造設計者は直感的に力の流れを空間的パターンとして想起しているととらえ,VAEを利用することで,力学的解析モデルを持たずに構造境界条件から位相最適化形状を生成可能なネットワークを構成した.このネットワークはエンコーダ,潜在変数,デコーダによって構成され,入力と出力が一致するように学習させることによって,少数の潜在変数によって学習データの特徴を表すことができる. 両端支持はりの位相最適化過程を示す画像の学習によって形成されるデコーダ(潜在変数空間から形状画像への写像)の観察によって,潜在変数空間を2次元とした場合,この変数空間がはりの変位拘束点の空間的な位置を反映していること,3次元とした場合には境界条件との対応に加えて最適化過程の進度を表現できることが確認できた.
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