ローラ表面や内部の欠陥寸法やビッカース硬さ,圧縮残留応力等の影響因子に基づいたトラクションドライブの転がり疲労強度予測式の導出を目的として,三カ年に渡って研究を行う. これまでの二カ年に渡って,疲労き裂の発生起点を実験的に確認した.その結果,ローラの内部で独立して発生した初期き裂は見られず,表面から発生している初期き裂のみが見られた.そこで,これまでの研究で得られたS-N曲線を参考に,ある押し付け力において疲労試験を行い,疲労寿命の途中の数段階で試験を停止しして,ローラ表面から進展するき裂の長さと個数を観察した.その結果,時間経過と共に,き裂の個数と長さが増加していることが分かつた.そこで,各試験で得られた最大き裂から,き裂先端での応力拡大係数とき裂進展速度を求め,これまでき裂進展に影響すると考えられていたローラ内部の転がり方向せん断応力では無く,ローラ表面のヘルツ接触応力でそれらが整理できることが明らかになった.さらに,得られた応力拡大係数とき裂進展速度を用いて,破壊力学におけるParis則により,実験で与えた押し付け力下における疲労寿命を予測した.その結果,疲労寿命の実験結果4000000回転に対して予測寿命6400000回転が得られ,おおむね一致した. ただし,予測寿命は実験結果よりもやや大きく,改善の余地はある.この原因として,疲労寿命直前の段階でのき裂観察が行えておらず,応力拡大係数とき裂進展速度の算出に用いたき裂長さが短かかったことが考えられる.また,他の押し付け力での評価も不足している.これらの課題を改善すれば,疲労寿命の予測精度をさらに改善できると考えられる.
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