研究課題/領域番号 |
21K03846
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
後藤 真宏 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主席研究員 (00343872)
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研究分担者 |
佐々木 道子 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, NIMS特別研究員 (50415171)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | オペランド解析 / 摩擦 / コーティング / 光照射 / 結晶配向性 / 電子励起 / トライボロジー / スパッタリング |
研究実績の概要 |
トライボロジー技術の向上による摩擦損失の削減は、温暖化ガス排出量抑制の重要手段として期待されている。この摩擦力の発生要因は、二つの材料間の分子間力であることが知られている。我々は、原子、ナノスケールにおいて、光照射による分子間力の変化で、摩擦力を制御可能であることを発見した。真空中では、光照射の有無により、瞬時に可逆的に摩擦力が変化し、一方、液中では光照射による摩擦力変化は、長時間保持されることを見出すなど、光によって熱的な摩擦変化とは相違するメカニズムが存在することを突き止めていた。そこで、本研究では、光の波長・強度を変化させながら摩擦現象を解析する「光オペランド摩擦解析」手法を提案・導入し、光による材料表面電子励起・化学反応と摩擦係数との相関を系統的に実験検証し、光による摩擦ダイナミクスの学理構築を目的とする。 本年度は、当該研究の基盤となる研究装置として、マクロレベルの光オペランド摩擦解析装置を作製した。これにより、真空環境下で各種材料のマクロレベルの摩擦力変化の光照射依存性を測定できる研究基盤を構築した。さらに、これを活用し、標準材料(SUS440C、SUJ-2、石英(バンドギャップ評価用)など)の光照射基礎摩擦評価データを取得した。 次に、バンドチューニングトライボコーティングとして、結晶構造・配向性制御TiO2コーティングの作製を行うと共に、既存のXRD、EDX、接触角計、分光光度計を用いてそれらの物性評価を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の2つの研究計画内容についての進捗状況の詳細を以下に示す。 1. マクロレベルの光オペランド摩擦解析装置の作製、(a)真空摩擦測定装置の改造:真空環境下でマクロな摩擦測定が可能な既存の装置に、新たに光学定盤を接続し、その上に光源台座、各種光学ミラー、スぺ―シャルフィルター、減衰器などを組み上げ、さらに、大型ポールを介した光学系を新たに設置し、各種光源からの光を当該装置に真空ビューポートを介して導入可能なシステムを独自に作製した。また、摩擦評価プローブ部分を工夫することで、光照射しながら摩擦係数評価が可能な装置を開発した。これにより、真空環境下で各種材料のマクロレベルの摩擦力変化の光照射依存性を測定できる研究基盤を構築した。(b)光照射基礎摩擦評価データの取得:(a)で構築したシステムを活用し、標準材料(SUS440C、SUJ-2、石英(バンドギャップ評価用)など)を用いて、真空環境下で摩擦力の測定を行い、コーティングサンプルが施されていない状態での摩擦係数の光照射波長・強度依存性についての基礎データを取得した。 2. バンドチューニングトライボコーティングの作製、(a)結晶構造・配向性制御TiO2コーティングの作製:全自動で結晶構造・配向性の異なる複数サンプルを作製可能な、既存のコンビナトリアルスパッタコーティングシステムを用いて、TiO2の結晶構造・配向性を少しずつ変化させながら、SUS440C基板上にコーティングを作製した。(b)結晶構造・配向性制御TiO2コーティングの構造解析:(a)にて作製したTiO2コーティングの結晶構造・配向性、組成、表面自由エネルギー、および、バンドギャップについて、既存のXRD、EDX、接触角計、分光光度計を用いて評価し、基礎データを取得した。 以上、計画通りに成果が得られており、当該研究は、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、昨年度作製したマクロレベルの光オペランド摩擦解析装置を活用し、バンドチューニングトライボコーティング材料である結晶構造・配向性制御TiO2コーティングの光オペランド摩擦解析を実施する。 ・結晶構造・配向性制御TiO2コーティングの光オペランド摩擦解析、(a)異バンドギャップTiO2コーティングの光オペランド摩擦評価:昨年度作製した光オペランド摩擦解析装置を用いて、既存の高強度水銀ランプ分光照射光源と接続し、各種TiO2コーティングについて、真空環境下において分光器にて光波長を変化させながら異なる波長・光強度の条件下で摩擦係数を評価する。基材には、一般的軸受け材料であるSUS440C鋼を用いる。この時、危惧されるのは、もし光照射による摩擦力の変化が見られなかった場合、マクロレベルの摩擦現象は光で変化しないのか、あるいは、当該光源では十分な光強度が得られていないものによるものかが不明となるであろう。そのため、同時に次の実験準備を行う。(b)異バンドギャップTiO2コーティング摩擦係数の光波長・強度依存性評価の拡張:光波長変更領域は狭くなるものの、光強度の増大が見込まれる新たな光源としてLEDを導入し、(a)の光源を置き換えて実験可能な研究環境を整える。これにより、TiO2コーティング摩擦係数の光波長・強度依存性評価の領域拡張を図る。
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