研究課題/領域番号 |
21K03854
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷垣 実 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (90314294)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 摂動角相関 / ウルトラファインバブル / スピン緩和 / 界面 |
研究実績の概要 |
ウルトラファインバブルの安定性の研究のため、放射性短寿命核をプローブとして摂動角相関法による研究を行った。本年度はウルトラファインバブルの界面に関する知見を得るため、ウルトラファインバブルの存在する水中に放射性核種In-111を導入し、水のpHを2、10、13と変えながら摂動角相関法によって観測した。その結果、pHが10付近でウルトラファインバブルの有無で摂動角相関測定で得られるスピン緩和のパターンが変わることが確認された。 In-111は摂動角相関法による物性研究で広く使われているプローブ核であり、Inは水中において錯イオンとして存在する。このときpHが概ね3.5以下では[In(H2O)6]3+、pHが13以上では[In(OH)6]3-とInを中心とする対称性の良い錯イオンを形成するが、その中間ではより対称性の低い錯イオンが集合体を構成すると考えられている。そのため、In-111水溶液のpHを変えながら摂動角相関測定を行うと、pH3.5以下と15以上では対称性のよい錯イオンの中心にあるIn-111はよく定義された電場勾配によるスピン歳差運動を行うことから、非常に長いスピン緩和が観測される。一方それらの中間では対称性の低い錯イオンの重合や回転運動の状況を反映した急激なスピン整列の減少や緩和がpHと共に変化していく様子が観測できる。 ウルトラファインバブルの界面は高い負の帯電をしている可能性が指摘されており、今回の摂動角相関のパターンの変化はこのウルトラファインバブルの界面状態が錯イオンの形成や重合、回転運動などに影響を与えた可能性が考えられる。より詳細な解析と追加の実験を計画中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
摂動角相関法によるウルトラファインバブルに関する測定を順調に実施することができた。またその結果からウルトラファインバブルの安定性や機能発現に重要な役割を担うと考えられるその界面状態に関する新たな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に得られた摂動角相関法による界面に関する情報を手がかりに、ウルトラファインバブルの安定性や界面に関する実験的研究を進めていく。2021年度の研究では3つのpHでの測定しか行えなかったため、2022年度はより詳細にpH依存性を取得し、pHが10の時にみられたウルトラファインバブルの有無の差がpHと共にどのように変わるかを明らかにする。特に摂動角相関法で得られるスピン緩和のパターンのpH依存性をより詳細に測定して、その結果を第一原理計算などと比較することができればウルトラファインバブルの界面の挙動に関する理解が大きく進むと期待される。 また、原子炉の中性子を利用して導入するウルトラファインバブル内のプローブ核を通じたバブル内の観測も継続するが、今年度は京大原子炉の運転期間が短縮されることが決まっており、割り当てられたマシンタイムによっては2023年度に一部研究の持ち越しを行う可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響等により、予定していた国際会議や学会への参加方法や時期の変更が発生して執行できなかった他、必要な試料の作成にも影響が出て実験の中止が発生したため。前年度実施できなかった実験等については本年度実施する予定である他、2022年度に開催されることになった国際会議には既に講演申し込み済みであるなど、執行の予定は立っている。
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