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2021 年度 実施状況報告書

自己推進液滴の運動多様性をもたらす分岐構造の解明と集団運動

研究課題

研究課題/領域番号 21K03855
研究機関京都大学

研究代表者

市川 正敏  京都大学, 理学研究科, 講師 (40403919)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードアクティブマター / エマルジョン / 相分離 / マイクロ流体デバイス
研究実績の概要

本研究では、自己駆動して遊泳運動する液滴が示す直進運動が湾曲運動へと転化するメカニズムの解明を目指している。本年度は、単体の液滴がサイズ依存的に運動様相を変化させる性質について実験と数理モデルの両面から研究を進め、この性質がゆらぎや摂動に対する直進安定性の変化という転移的な現象であることを明らかにした。

実験ではインジェクターを用いてミクロ液滴の単体ローディングと大きさ制御を行い、サイズに関する運動様相の相図作成、運動方向変化と対流変化の同時測定を実施した。相図からは液滴サイズの増大に伴い直進性が弱くなり、半径70~100μmを境に湾曲運動となる結果が得られた。対流測定では液滴内に分散させた微粒子の動きから対流を取得した。対流を球面調和展開した各対流成分の振幅と位相に変換し、液滴の速度や運動方向との比較を行った。その結果、湾曲角度と双極子型内部対流と同・四極子流との角度差に極めて高い相関があることを発見した。次に数理モデルとして、液滴界面の界面活性剤分子濃度に関する移流拡散方程式を立て、双極子や四極子など球面調和展開した成分同士の相互作用に着目して時間発展方程式を導き、実験で示された双極子成分と四極子成分の角度差について解の安定性を解析した。その結果、液滴サイズを大きくすると、ある点で安定な角度差が180度転移し、それに伴って摂動に対する応答性が減衰方向から増幅方向に切り替わる事が分かった。物性値を代入したモデルが示唆する転移点の液滴サイズが実験と近い事や、湾曲角度についてパラメータ調整無しでも実験結果と良く一致する事から、直進から湾曲への運動モード転移のメカニズムを十分説明していると判断した。この結果は、単純な自己駆動液滴のみならず細胞運動や原始生命体の運動獲得やその多様化に関して物理学的考察の道筋を与える事が期待できる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

計画当初に具体的に予定していた実験や数理モデルの構築はほぼ達成し、研究成果を公表する事ができた。発展的課題として期間後半に予定していた多数液滴での実験に取り掛かることになった事から、期間全体の目標の半分を越えて進展している。また、当初の見込みではメカニズムにおける力学的な要素は、角度に関するオーダーパラメータの分岐現象だと予想していたが、実際には摂動に対する応答性の性質変化という結果が得られており、自発運動の多様化がこれまであまり例の無い性質の現出であるという予想外の知見を得る事が出来た。一方で、本研究が目指している「生き物らしいうごき」の創発の一環として、単純な微生物の遊泳運動についても研究成果を公表する事もできた。よって、研究計画の進捗としては目標通り順調に、成果としては目標以上に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

現時点では、数理モデルから得られた解の安定性や解回りの定性的な挙動を実験と比較し、湾曲角度に関する実験データとの定量的な比較検証を通じてメカニズムを与えているが、摂動やゆらぎがどこから由来しているかは推測のみで調べてはいない。そこで次年度ではモデルの検証を更に発展させ、数理モデルで得られた微分方程式の時間発展シミュレーションを行い、液滴の動き自体を直接比較する事で、摂動やゆらぎとして与えている内的外的要因の性質を明らかにする。この知見から、実際の自己駆動液滴の要素、例えば界面活性剤濃度分布やミセル濃度、膨潤ミセル濃度、ミセル脱離プロセスのバラつき、等のどの要素が運動変化に強く効いているかを推測する事が可能となり、液滴の運動制御への応用につながると考えている。また、単体液滴で明らかになった知見を活かして、多数液滴の集団運動や協調的な運動の創出や制御を行い、特徴的な集団運動を取り出すことを目指す。液滴-液滴間の相互作用の測定の実験、液滴と壁との相互作用測定などの特定境界条件での実験なども行う事で、複数のアクティブ液滴で構成されるアクティブクラスターの作成やその対称性と集団運動のメカニズムの解明を行う。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2021 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] Straight-to-Curvilinear Motion Transition of a Swimming Droplet Caused by the Susceptibility to Fluctuations2021

    • 著者名/発表者名
      Suda Saori、Suda Tomoharu、Ohmura Takuya、Ichikawa Masatoshi
    • 雑誌名

      Physical Review Letters

      巻: 127 ページ: 088005/1~6

    • DOI

      10.1103/PhysRevLett.127.088005

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Near-wall rheotaxis of the ciliate Tetrahymena induced by the kinesthetic sensing of cilia2021

    • 著者名/発表者名
      Ohmura Takuya、Nishigami Yukinori、Taniguchi Atsushi、Nonaka Shigenori、Ishikawa Takuji、Ichikawa Masatoshi
    • 雑誌名

      Science Advances

      巻: 7 ページ: eabi5878/1~8

    • DOI

      10.1126/sciadv.abi5878

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Accumulation of Tetrahymena pyriformis on Interfaces2021

    • 著者名/発表者名
      Okuyama Kohei、Nishigami Yukinori、Ohmura Takuya、Ichikawa Masatoshi
    • 雑誌名

      Micromachines

      巻: 12 ページ: 1339~1339

    • DOI

      10.3390/mi12111339

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [備考] 泳ぐ水滴はなぜ直進しないのか?

    • URL

      https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-08-23-1

  • [備考] 泳ぐ微生物が海まで流されない理由 -SDGsに欠かせない小さな生物たちの振る舞いを解明-

    • URL

      https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-10-21-0

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公開日: 2022-12-28  

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