研究課題/領域番号 |
21K03864
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
伊藤 高啓 中部大学, 工学部, 教授 (00345951)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 接触線 / 接触角 / 濡れ性 / 界面 |
研究実績の概要 |
2021年度は主に3次元の界面形状測定と分子動力学解析を進めた.3次元の界面形状測定では光学シミュレーションを併用した校正法を確立するとともに,光源分布の偏りを最適化することにより,高い精度での測定が可能となった.測定は今年度は鉛直ガラス面を流下する液滴を対象として行った.滴下する液体の滴下開始前および開始後について,液滴接触線(気体界面―液体界面-固体界面の交線)の(ほぼ)全周にわたる接触角を同時に測定した.それによりこれまで近似曲線のみで表されていた滴下前の接触角履歴による接触角分布に関するデータを得ることができた.また,動的接触角の分布についてもデータを得ることができ,これを用いて液滴にかかる力の評価を行い,理論と良い一致を得た. 分子動力学解析では,自己組織化単分子膜(SAM)表面上を移動するエチレングリコール液滴を対象として行った.計算に用いるポテンシャルセットは前年度に使用していたCompass からOPLS-AAに変更した.これはCompassの方がより新しく,より複雑な関数形まで対応してはいるが,一部ポテンシャル係数が未公開であったことによる.OPLS-AAを用いた計算では過去の文献と同様,エチレングリコールの物性やSAMの挙動を本研究で十分な精度で再現した. 計算では,SAM上でのエチレングリコールの静止接触角は実験値よりもやや大きな値となった.また,レナードジョーンズ流体を用いた過去の過去の研究同様,動的接触角の接触線速度依存性は実験に比べて極めて小さなものとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3次元の界面形状測定では試行によるばらつきがまだ大きいものの,静止液滴について他の測定法(バックライト法)との比較でもよい一致が得られたこと,また,接触角の分布と液滴の全体形状の双方が精度良く測定できないと困難である液滴にかかる力の評価がほぼ理論通りにできたことから,今後の測定に必要な精度を確保できたと考える. 分子動力学解析についても動的接触角の速度依存性に関する計算まで進めることができたので,おおむね順調と判断した.壁面の運動が正確に制御できていない部分があったが,結果には大きな影響はなかったと考えられる.ただ,統計量の不足により,結果のばらつきがみられたので,今後は統計量を十分に確保する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は界面形状測定,分子動力学解析とも平滑(かつ均質)な面を想定して行った.一方,接触線が運動する際の接触角である動的接触角は多くの場合,粘性応力による界面湾曲に加え,表面の微小な幾何学的.化学的不均一による接触線の断続運動(スティックスリップ運動)が大きな影響を持つと考えられる.これを踏まえ,2022年度は,界面形状測定については,レーザー等で表面に微小な欠陥(凹凸)を設けたガラス板やアクリル板を利用した実験を行う.また,自己組織化単分子膜(SAM)表面上の分子動力学解析は,SAMを構成する分子の傾斜方向が動的接触角に影響を与える可能性があるため,向きを変えた計算を行う.また,進捗次第では,分子の傾斜方向が変化する境界で接触線の固着開放が起こると考えられるので,異なる傾斜方向をもつ固体面を作成し,その表面での接触線挙動を解析する.また,2021年度の結果から,統計性を確保するのに必要な計算ステップ数の情報が得られているので,その結果に基づき,十分な統計量が得られるだけの計算時間を確保し,ばらつきの十分少ない計算結果を得ることを目標とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定では3次元界面形状測定系(カメラ等)を更新する予定であったが半導体サプライチェーンの混乱等により新機種(主にドイツ製)の発売が遅れており,購入を見合わせた.これについては22年度中の購入を予定している.また,分子動力学計算では,計算の大規模化にいたるところまでノウハウが蓄積されなかったため,予定より計算量が少なかったことも支出が予定より減ったことの要因となっている.
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