研究課題/領域番号 |
21K03870
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小原 哲郎 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (80241917)
|
研究分担者 |
石井 一洋 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (20251754)
前田 慎市 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60709319)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | デトネーション波 / デフラグレーション波 / DDT / 障害物 / 高速火炎 |
研究実績の概要 |
デトネーション波は,衝撃波と燃焼波が一体となって超音速で伝播する燃焼波であるが,デフラグレーション波(火炎)がデトネーション波に遷移する過程(以下,DDT過程と略す)については十分明らかにされていない。特に,デトネーション管内に化学量論混合比の水素-酸素といった反応速度の高い予混合気体を充填した場合のDDT過程については,火炎が既燃気体の音速程度にまで加速せずに生じることを明らかにしてきた。一方,DDT過程の最終段階で生じる現象については未解明のままである。 本研究では,デトネーション管内にDDTを生じさせるための障害物を1個のみ設置し,障害物によってDDTが生じる過程について明らかにする実験を行った。実験では,点火端から障害物までの距離,障害物の高さ,予混合気体の初期圧力を種々変化させた。障害物の背後には周波数特性の優れた圧力変換器を5個設置し,障害物背後におけるDDT過程について圧力波形を明らかにする実験を行った。実験では,超高速度ビデオカメラを用いた可視化観察を同時に行うことにより,可視化動画と圧力波形の比較により,デトネーション波への遷移状況について調査した。本研究で得られた知見を以下に要約する。 (1) 火炎が伝播する過程で生じた圧縮波が障害物で回折することにより渦を形成し,渦に巻き込まれるように火炎が伝播するため,障害物の背後には未燃気体領域が形成される。 (2) 未燃気体領域を火炎が障害物に平行な方向(奥行き方向)に伝播する過程で著しく高い圧力上昇を伴ったデトネーション波に遷移する場合がある。 (3) 火炎が未燃気体領域中を奥行き方向に伝播する過程でCJデトネーション速度に相当する高速火炎へ成長し,高速火炎が奥行き方向にある壁面に衝突した際にDDTを引き起こす場合がある。この場合には,圧力波形上にはデトネーション波に相当する圧力上昇は捉えられていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,単一障害物背後において生じるDDT過程について詳細にすることを目的としており,時間的特性の優れた圧力変換器を障害物背後に5個設置し,圧力波形を取得することを計画してきた。 本実験では,火炎がデトネーション波に遷移する過程を捉えた超高速度ビデオカメラの映像と圧力波形を比較することにより,障害物背後におけるDDT過程を詳細にすることを行っている。また,従来のように障害物を水平方向に設置する方法では,障害物の奥行き方向で生じる現象全てが映像では重なって可視化されるため,奥行き方向で生じる現象を明らかにすることは不可能であった。そこで,障害物を鉛直方向に設置することにより,障害物の奥行き方向で生じる現象を鉛直方向の動画として捉えることに成功している。同時に,圧力波形と動画を比較することにより,高速火炎の伝播状況ならびに高速火炎による圧力変化についても明らかにすることができた。単一障害物上でデフラグレーション波がデトネーション波に遷移する現象については,3次元的な現象が重要であることを明らかにしており,特に,障害物背後の未燃気体領域を火炎が奥行き方向に伝播する過程では,著しく火炎が加速することを明らかにしており,(1) 高速火炎が障害物の奥行き方向を伝播する際にデトネーション波に遷移し,Chapman-Jouguet(CJ)デトネーション波に相当する速度および圧力上昇を伴う場合,(2) 高速火炎の伝播速度はCJ速度の約40%未満であり,圧力上昇を伴わない場合,の2つのパターンが存在することを明らかにすることができた。このような知見については,これまで明らかにされてきたDDT過程とは異なっており,比較的反応速度の高い予混合気体に特有のDDT過程であると考えている。高速火炎の伝播状況については,さらに時間分解能を高めた可視化観察を行うことが必要と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
障害物背後を奥行き方向に伝播する高速火炎の伝播速度は秒速約1 kmとなる。また,デトネーション波に遷移した場合の伝播速度は秒速約3 kmとなり,デトネーション波に遷移した直後においては秒速3 kmを超える。したがって,障害物背後に形成された未燃気体領域を火炎が加速する過程のどの段階においてデトネーション波に遷移するのか,どのようにDDTが生じるのかを明らかにすることは極めて難しい。特に,DDT過程の最終段階においては,局所爆発の生じることが知られているが,局所爆発は火炎や衝撃波などの干渉により微細な領域で生じ,しかも時間的には極めて短い時間で完了する。したがって,DDT過程の最終段階における現象を明らかにするには,時間および空間的な分解能をさらに高めて可視化観察することが重要と考えている。 時間分解能については,現在使用している超高速度ビデオカメラのコマ間隔を百万分の1秒とし,1コマ当たりの露光時間を短く設定して可視化観察を行う計画である。また,障害物背後における圧力波形を取得するには,圧力変換器を埋め込む必要がある。圧力変換器の受圧面は直径が6 mm程度であるとともに高価でもあるため,局所的な圧力を多点計測するには不向きである。本実験では,これまでに取り組んできたピエゾ素子(PZT,チタン酸ジルコン酸鉛)を用いた自作圧力センサーを応用する計画である。具体的には,障害物背後の比較的広い範囲に自作圧力センサーを埋め込み,高速ビデオカメラによる可視化観察と圧力波形の同時計測を行うことを計画している。自作圧力センサーの立ち上がり時間は市販のものと同等の百万分の1秒程度であることを確認している。障害物背後の比較的広い範囲に自作圧力センサーを10個程度埋め込み,動画と圧力波形の対応より,DDT過程の最終段階で生じる現象を明らかにする計画である。
|