研究実績の概要 |
曲面や角を有する複雑形状周りの数値シミュレーションの精度向上は,航空機やタービン翼などの流体機械の性能向上につながるため工学的に重要な課題である. 既存の乱流モデルは剥離点近傍での予測精度が大きく低下する問題があり,曲面や複雑形状へ適応可能なモデルは未だ発展途上である. 現状の乱流モデルは,計算機が十分に発達していない時代に, 単純な流れを用いて開発されたモデルが標準モデルとなって産業利用が進んできたが, 近年では,小スケールの渦運動のみをモデル化して,大規模スケールの渦運動の時間発展方程式を解くラージ・エディ・シミュレーション(LES)が設計現場でも利用されつつある. しかしながら, LESでは壁面近傍のエネルギー生成のピークを十分に解像する必要があり, 複雑な形状を有する流体機械内部の流れなどへの応用には,壁面近傍の乱流のモデル化が現在でも必要である. そこで利用されているLESのための壁モデルは, 真っ直ぐな平板上で開発されたものを, 曲面や複雑形状のような剥離流れを伴う乱流に対しても利用されており, 妥当なモデリングがなされていない. 本研究では,乱流モデルを用いない高精度の直接数値シミュレーション(DNS)の結果を利用し, 剥離する直前の乱流境界層にも適用できるLES壁面モデルの開発を行う. 今年度は,以下を実施した: (i) GPUを利用した計算機環境の構築,及び,GPUに対応したDNS/LESプログラムの作成・検証; (ii) 壁面乱流への圧力勾配の影響を系統的に調べるためにCouette-Poiseuille流れの, 直接数値計算を実施し, 逆圧力勾配と乱流統計量の関係について調査; (iii) カノニカルな壁乱流である平行平板間乱流の浮力による渦構造へ影響を調査した. 以上のさまざまな乱流DNSデータを活用して, LES壁面モデルの予測精度向上を目指す.
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