研究課題/領域番号 |
21K03891
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
松下 洋介 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (80431534)
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研究分担者 |
松川 嘉也 東北大学, 工学研究科, 助教 (30882477)
青木 秀之 東北大学, 工学研究科, 教授 (40241533)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 熱移動 / 物質移動 / 燃焼 / 数値解 / 単一粒子 / シミュレーション / 詳細化学反応機構 / ラジカル |
研究実績の概要 |
詳細な検討に先立ち,化学平衡計算により決定した気相の組成を固定した条件において,単一粒子の不均一反応のみを対象としたゼロ次元の燃焼シミュレーションを実施した.不均一反応には,微粉炭やバイオマスの燃焼やガス化シミュレーションで広く用いられる,発熱反応である部分酸化反応C+0.5CO->CO,吸熱反応であるCO2ガス化反応C+CO2->2CO,吸熱反応であるH2Oガス化反応C+H2O->CO+H2を考慮した.さらに,これらの不均一反応に加えて,ラジカル種が関与する不均一反応として,発熱反応であるC+O->COと吸熱反応であるC+OH->CO+Hを考慮した.その結果,ラジカル種が関与する不均一反応の反応速度は部分酸化反応,CO2ガス化反応やH2Oガス化反応の反応速度よりは小さいものの,その大きさは決して小さくないことがわかった.そこで,部分酸化,不均一反応を含む,詳細化学反応機構を用いた化学反応を伴う単一粒子周りの1次元の熱・物質移動解析を実施した.その結果,例えば,粒子径50 μmの粒子を対象に沖合の温度を1500 Kとすると,正味の不均一反応の反応速度は,ラジカル種が関与する不均一反応を考慮する場合,考慮しない場合と比較して1.5倍程度大きくなり,前述のゼロ次元解析と同様の傾向を示した.また,この際,部分酸化反応,CO2ガス化反応とH2Oガス化反応はラジカル種が関与する不均一反応を考慮しない場合とした場合でほぼ同じ反応速度を示した.すなわち,この条件においては,不均一反応の見かけの反応速度はラジカル種が関与する不均一反応の反応速度分だけ増加することがわかった.また,ラジカル種が関与する不均一反応を考慮することで,粒子近傍のOラジカルとOHラジカルが減少し,Hラジカルが大幅に増加した.そのため,粒子近傍ではHラジカルが関与する気相反応が変化することが示唆されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本的には,研究計画にしたがい研究課題「固体燃料表面とそのごく近傍で生じる化学反応のダイナミクスとモデル化」を実施した.ただし,研究代表者の異動に伴い,一部研究計画の順序を入れ替えることで,研究計画を変更した.具体的には,「キューリーポイントパイロライザーとガス分析による化学種の定性と定量分析」を次年度以降に実施するものとした.まず,「熱天秤を用いた微粉炭チャーの酸化・ガス化反応の測定と定式化」を実施した.ただし,ラジカル種が関与する不均一反応の反応速度を測定することはできないため,発熱反応であるC+O->COと吸熱反応であるC+OH->CO+Hの反応速度にはグラファイトを対象とした文献値を用いることとした.これらの反応速度を用いて,研究計画を前倒しし,「化学反応を伴う単一微粉炭粒子周りの熱・物質移動解析」を実施した.そのため,研究計画の順序を入れ替えたものの,研究全体としては予定どおり実施できていると考える.
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今後の研究の推進方策 |
不均一反応を含む,詳細化学反応機構を用いた化学反応を伴う単一粒子周りの熱・物質移動解析では,1次元問題ではあるものの,その計算時間は決して小さくない.現在,多くの化学反応の時間スケールは熱・物質移動の時間スケールと比較して十分に小さいため,一定時間,熱・物質移動は生じず,化学種の濃度は化学反応のみによって決定される仮定し,化学種の保存式を時間に関する常微分方程式と見なし,この連立常微分方程式の解法にLSODE (Livemore Solver for Ordinary Differential Equations)を用いて化学種の濃度を求め,一定時間経過後にエネルギーと化学種の保存式を空間に関する偏微分方程式と見なし,離散化して求められる連立方程式の解法にTDMA (Tri-Diagonal Matrix Algorithm)を用いて温度と化学種の濃度を求めている.これは,擬定常状態までの非定常計算に加えて,非定常計算の各時刻における数値解を求めるための反復計算において,特に固体燃料の粒子表面において生じる不均一反応速度が粒子表面の温度と化学種の濃度が変化することによって境界条件が変化し,反復回数が増加するためであると考えている.一方,詳細化学反応機構を用いた1次元の対向流拡散火炎や予混合火炎を対象とした定常計算には,Newton-Raphson法が広く用いられている.これは,Newton-Raphson法では,適当な初期値を与えることができる場合,極めて早く定常解を求めることができるからである.そのため,本研究の対象である不均一反応も含む,詳細化学反応機構を用いた化学反応を伴う単一粒子周りの熱・物質移動解析にもNewton-Raphson法の適用を検討し,計算時間を短縮することで,研究の効率化を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の異動に伴い,一部研究計画の順序を入れ替えることで,研究計画を変更した.そのため,次年度は次年度分に加えて,初年度の未使用分である実験のための消耗品と研究打ち合わせのための国内旅費も含めて使用する予定である.
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