日本は2020年,2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする,カーボンニュートラルを目指すことを国際的に宣言した.日本が温室効果ガスの排出を大幅に削減するためには,産業分野の排熱の回収とその有効利用は不可避なテーマである.現在,蓄熱により産業分野における低温未利用熱エネルギーを貯蔵・輸送して需要をマッチングさせるための様々な研究開発が進められている.このような状況下,幕田らは超音波ホモジナイザーを用いてコアがキシリトール,シェルがシアノアクリレートで構成される過冷却蓄熱を利用した糖アルコール蓄熱マイクロカプセルの開発に成功した.そして,過冷却解除による潜熱の放熱により分散液の温度上昇を観察した.その後,彼らはシリカ膜に覆われたエリスリトール蓄熱マイクロカプセル(以下ERMs)を開発し,物理的刺激によるERMsの過冷却解除で分散液が約7 K温度上昇したことを確認した.このように,固-液相変化の潜熱を利用して蓄放熱する相変化物質(以下PCM)は,マイクロカプセル化することで体積当たりの表面積が増加するため蓄放熱特性が促進される.さらに,PCMを含むマイクロカプセルを流体に分散させることで熱輸送媒体としての利用が期待できる.本研究では,幕田らの研究グループが開発したERMsをシリコーンオイル(KF-96-100cs)に分散させ,その分散液の熱流体特性を水熱量計蓄放熱測定システムと音叉振動式および回転粘度計測定システムを用いて検討した.この結果,本測定条件(質量分率 15 %,スターラーの回転子による物理的刺激 900 rpm,10分間)においてERMsに含まれていたエリスリトールの放熱量は,エリスリトール潜熱量の52.2%であることが示された.さらに,ERMs分散液の有効粘度はKF-96-100csシリコーンオイルの粘度の1.70倍であることが示された.
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