研究課題/領域番号 |
21K03894
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
廣瀬 裕二 千葉大学, 大学院工学研究院, 助教 (60400991)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 振盪ゲル / ゾル=ゲル転移 / 粘度ジャンプ / 保温材 |
研究実績の概要 |
ナノサイズのシリカ粒子をポリエチレングリコール(PEG)水溶液に分散させた系が振ることでゲル化し,その後しばらく静置すると流動性が回復する「振盪ゲル」の性質を示すことを利用し、低粘度ですばやく蓄熱してその後振ることで保温性を維持する効果が表れるかを粘性測定、熱電対を用いた温度測定により調べた。 PEGの分子量、濃度、シリカ粒子(粒径11 nm)の含率が異なる様々な振盪ゲル試料を調製し、その粘度のせん断速度依存性を測定した。その結果、平均分子量が4,000,000と大きなPEGを用いることで70℃程度の温度でも粘度の上昇を示すという、従来見られなかった現象が確認され、振盪ゲルに保温剤としての利用が期待できることが分かった。この現象はPEGの重量分率が0.2 %程度と非常に小さくても発現し、流動性を有する状態において粘度が小さく、本研究で期待している、ゾル状態の粘度が小さく素早く外部からの熱を内部に伝える作用を有することも予想される。 一方高温におけるゲル状態を保持する時間は1分にも満たない短いものであった。さらに70℃でゲル化させた試料を入れたガラス瓶を20℃の恒温槽に入れて温度変化を測定したところ、ゲル化させなかったものよりも短時間で温度が低下した。これは流動性が回復する際に試料内部で物質対流が発生し、外部の熱がより内部まで伝播したためと推測される。逆に20℃でゲル化させた試料を70℃の恒温槽に入れた場合には、ゲル化させなかったものより長時間低温を保持した。このことから、降温過程でもゲル状態を長時間維持することができれば昇温過程と同様に温熱を長時間保つものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来平均分子量2,000,000までのPEGを用いた場合では、おおむね60℃以上の温度で粘度ジャンプを観測することができていなかった。60度を超える温度域でゲル化する資料を見出すためさまざまな組成の試料を調製して粘度測定を行ったが、この分子量を4,000,000に上げることで70℃でも粘度ジャンプを確認できた。またこのときのPEGの重量分率は0.2 %程度と小さく、ゲル化前の流動性も確保することができた。当初分子量の大きなPEGを用いることで弾性の大きなゲルとなる可能性があり、現在所有しているレオメーターで測定できない可能性があったが、初年度購入予定であった高いトルク領域に対応したレオメーターを用いることなく測定できた。 一方70℃で振盪した試料を20℃の恒温槽に入れた場合、逆に振盪した試料の方が短時間で温度が低下するという、当初の予想と異なる現象が見られた。これはゲル状態を示した試料の流動性が回復する過程でシリカ微粒子やPEG分子などが動くことにより内部に対流が生じたためと推測される。昇温過程では振盪によりゲル状態を比較的長時間保つことで温度上昇を抑えることができることが確認できたため、高温においてゲル状態が長時間保たれることで降温過程においても保温効果が高まるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは挙動の安定した振盪ゲル試料が得られる粒径11 nmのナノシリカのみを使用していたが、これを18 nm, 25 nmなど大きさの異なるシリカを用いた際の挙動を観察する予定である。粒径の大きな粒子は多数の吸着点を有することから流動性の回復に時間を要することが期待される。 また振盪後にPEG分子鎖が容易にそのネットワークを壊さないことでゲル状態を長時間保つことを期待して、直鎖状とは異なる分枝構造を有するPEGを新たに購入して試料調整、測定を行う予定である。 これらの試料では弾性の大きなゲルとなる可能性があることから、ゲル状態の挙動を正確に測定するため高いトルク領域に対応したレオメーターを現在発注している。ただし100℃を超える温度領域で想定可能なオプションが高価であることから、80℃までの研究を優先し、予定していた購入を行うかどうかは検討を行う。 さらに予定している熱伝導率測定装置の購入を行い、より精度の高い試料の熱移動現象についても調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
約100万円であるレオメーターの発注は令和3年度中であったが、海外から輸入品のため納品に時間を要しており令和4年度の使用予定である。高温対応のレオメーターオプション(ヒートガン)は想定より高価となり、レオメータとの同時購入については代替品等慎重に検討する。
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