伝熱面の濡れ進展速度とプール沸騰CHFの関係解明を目的として、水を試験流体とする大気圧下プール沸騰実験を実施した。濡れ進展速度を計測するため、試験流体で満たしたポリカーボネート製の円筒容器の底部に厚さ50ミクロンの銅薄膜を配置し、これを直径18mmのレーザーで加熱することで伝熱面とした。容器内に配置したシースヒーターにより液温を飽和温度に保つとともに、円筒容器の頂部に凝縮器を設置して、容器内における液量の減少を防いだ。また、CHFの検知、及び大気泡の底部に形成される高温の乾き域の拡大・収縮速度に関する実験データを収集するため、伝熱面温度分布の時間変化を高速度の赤外線カメラを用いて計測した。伝熱面の表面性状の影響を調べるため、表面研磨を行った銅薄膜と電気炉を用いて空気中で200℃の高温状態を2時間保持して酸化被膜を形成した銅薄膜の二種類を用いて実験を実施した。酸化被膜の形成により、伝熱面の接触角は90度から34度に低下した。また、熱流束がCHFの85%程度になると、大気泡の直下に明確な高温領域が形成され、高温域の面積は気泡の成長とともに拡大し、気泡の離脱とともに収縮した。そして、高温域が収縮するときの速度を濡れ進展速度、高温域が際限のない拡大を開始するときの熱流束をCHFと定義した。実験の結果、濡れ進展速度は熱流束には大きくは依存せず、研磨面では0.10m/s程度、酸化面では0.12m/s程度であり、酸化膜の形成により濡れ進展速度は有意に変化することがわかった。これより、酸化面ではCHFが向上すると予想されるが、CHFの計測値は研磨面に対して806kW/m2、酸化面に対して791kW/m2であった。このため、例えば伝熱面上にナノ粒子層を形成するなどして、濡れ進展速度とCHFをより大きく変化させた上で、両者の関係を検討することが今後重要と考えられることを示した。
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