研究課題/領域番号 |
21K03897
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松本 充弘 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10229578)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 流体相変化 / マイクロ流路 / 流れの可視化 / 表面粗さ / 画像解析 / 積分幾何学 |
研究実績の概要 |
本課題研究は,変圧器(トランス)の鉄心等に用いられる積層鋼板間隙にしみこんだ絶縁油を安全・高効率で除去する蒸気洗浄技術の開拓を発端として,10μmスケールの平板間隙に閉じ込められた液体が減圧下で示す複雑流れを対象として,可視化実験によるデータ解析と流体物性に基づく物理化学的モデリングを行おうとするものであり,2018-2020年度に実施した研究(科学研究費補助金 基盤研究(c) 18K03976)の成果をさらに発展させるべく,2021年度より開始した.2年目にあたる2022年度は,前年度までに種々の改良をおこなった実験装置を用いて,より情報量の多い測定方法の開発をすすめるとともに,画像解析手法の開発を進めた. (1) 装置の改良:アルコールセンサーおよび温湿度センサーを導入し,水・エタノールおよびそれらの混合物を試験液体とする実験を行った. (2) 画像解析手法の改良:前年度に新たに導入した積分幾何学の手法に基づき,蒸発領域の動的パターン解析方法の改良を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 装置・実験方法の改良と測定:前年度までに改良した測定装置系(真空チェンバー,減圧装置,光学系)を用いて,今年度は,主に以下の2つの実験を行った. 1-1: 真空チェンバー内の複数箇所にアルコールセンサーを設置し,エタノールおよびその水溶液を対象として,減圧下での間隙内流体の蒸発過程でのアルコール蒸気密度のデータ取得を試みた.入手できたアルコールセンサーは非常に高精度ではあるが測定できる蒸気密度領域が狭く,本実験のほとんどの過程において最大蒸気密度を示しており,蒸発に伴うパターン形成と蒸気圧の関係を議論するデータを得ることは困難であることがわかった. 1-2: アルコールセンサーの利用に代えて,温湿度センサーによる水蒸気圧(水蒸気密度)の測定を試みた.入手できた温湿度センサーは0℃~50℃程度の範囲で,相対湿度0~100%の空気の測定を対象とした汎用的なものであるが,絶対湿度に換算することで,減圧下での水および水溶液の蒸発過程を追跡するという本研究の目的で十分に使用できることが試行実験によりわかった.このセンサーを真空チェンバー内の複数箇所に設定してデータを取得し,減圧に伴うパターン形成と水蒸気密度の関係を議論できるようになった.現在も実験を継続中であり,まとまった段階で学会発表・学術論文執筆を予定している. (2) 画像解析手法の開発:昨年度に初めて試みた「積分幾何学」の方法での画像データ解析ツールをさらに改良し,パターンの周長評価を効率よく行えるようになった.この手法の提案と検証を述べる学術論文を作成中である.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 実験:引き続き温湿度センサーと光学系による実験を継続し,間隙内のパターン形成のタイミングを調べ,そのメカニズムを議論する計画である.センサーの制限から,水および水溶液系の実験に限定せざるを得ないと考えているが,間隙内液体(薄液膜)の安定性を支配する因子について議論を深めていく予定である. (2) 画像解析手法:「積分幾何学法」にもとづく新しいアルゴリズムの導入で,複雑なパターンの解析を効率よく行うことができるようになった.今後,さまざまな条件下で実施した実験の画像データを新たな視点から解析し,間隙内流体のパターン形成に関する基礎的データを蓄積する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議に参加して成果発表をおこなうための旅費や論文投稿料を予算計上していたが,新型コロナ感染症の影響により,国際会議の延期が続いたため,旅費支出がされていない. 2023年度には国際会議参加費用と論文投稿費を予算に計上する.また,大きな装置改良を行うことは予定していないが,引き続きセンサー系・光学系の改良などのための各種部品やガラス板などの消耗品への支出(物品費)を予定している.
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