5Gに代表される小型携帯IT機器の分野では発熱するCPU等の冷却技術がますます重要となっており,小型で薄型のヒートパイプはすでに有効な伝熱デバイスとしてスマートフォンなどの内部で使用されている.しかしCPUの性能向上や機器の薄型軽量化がさらに進むと,ヒートパイプ内の蒸発部(発熱部)に凝縮液が十分還流せずにドライアウトが生じ,冷却が困難になる危険性が考えられる.本研究では水平電界タイプのエレクトロウエッティング(以下EWと呼ぶ)を誘電体膜の厚みを薄くすることで低電圧で駆動するように改良し,ヒートパイプ内の密閉な低圧環境でも作動する技術を研究した.具体的には誘電体膜として極薄の酸化チタン膜を使用して低電圧駆動を可能とし,ヒートパイプ内のウィック内での液膜の伸長作用を発現させる.そしてドライアウトの発生を抑制・遅延させると共に,その結果としてヒートパイプの伝熱量の維持・向上を目的とした. 2022年度までにEWによりドライアウトの発生が遅延することが確認できたので,2023年度はこの効果の再現性の確認と共に伝熱的な評価を進めた.つまり,EWによる液膜の延伸作用により,ドライアウト発生直前での最大熱輸送量をどの程度増加させることができたかを調査した.具体的には,液蒸発部へのヒーターによる加熱量やヒーターから液蒸発部までの熱抵抗の計算,および蒸気による熱輸送以外の熱リーク量を評価することで熱輸送量を検討した.その結果,EWを加えない時の最大熱輸送量が5.18 Wであったものが,EWを印加することで,10.6 Wと約2倍に向上していることが分かった.以上,この研究から,EWによりドライアウト発生が遅延されていることが温度データから証明できただけでなく,伝熱的効果としてヒートパイプの最大熱輸送量に関して約2倍程度の向上が可能であるとのメリットを実験的に示すことができたと考えている.以上
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