研究課題/領域番号 |
21K03905
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
馬場 宗明 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (10711773)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 熱交換 / 伝熱促進 / 微細加工 / 濡れ性制御 / 凝縮 |
研究実績の概要 |
本研究では、マイクロ流路とナノ・マイクロ微細形状を有した3次元マイクロ流路ネットワーク構造による集積熱制御デバイスに関する研究開発を行った。 (1) 反応性イオンエッチングを利用してナノ・マイクロ階層構造表面を作製し、滴状凝縮の観察を行い、凝縮液滴挙動に及ぼすマイクロ構造の影響について調べた。実験より、構造の違いによりマイクロピラー間の液滴に働くラプラス圧力勾配によりCassie状態に移行し、液滴径20μm以下のjumping dropletが高頻度で発生することを明らかにした。f-DLCによる優れた耐食性、耐摩耗性を持つ安定な低表面エネルギーコーティング手法を検討し、凝縮実験に用いる目途を立てた。また、混相流体のCFDシミュレーションも併用して、ピラー形状や表面エネルギー、過冷度条件などの物理的な意味を理解し、伝熱促進の指針を明らかにする準備を行った。 (2)感温性蛍光粒子(Temperature Sensitive Paint、以下TSP)を用いた伝熱面温度および熱伝達率分布の可視化を行った。前年度に作成したTSP塗膜付の多層構造伝熱面を用いることで、ドライパッチの膨張によって引き起こされる熱伝達の低下により、伝熱面上の核形成された蒸気泡の下に高温領域が観察され、液体層内の対流熱伝達により蒸気泡の周囲に低温領域が存在することが観察された。気泡の底部の温度分布が気泡の成長と移動に追従していることが分かった。さらに、大きなスラグ気泡の底部にドライゾーンを形成した場合の非定常熱伝達率分布を定量的に評価できることを実証した。 (3)マイクロ沸騰直冷デバイスの基礎構造の設計・試作を行った。薄液膜蒸発面の拡大による面全体での熱伝達率の向上とリエントラント構造形成を利用した給液流路の設計により、沸騰冷却デバイスの性能向上のための見立てを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、(1)反応性イオンエッチングおよび接合技術を応用した多層接合による集積型熱制御デバイスの製作手法確立と、(2)流路内の熱流動現象に関してナノ・マイクロ階層構造による相変化熱伝達の飛躍的向上や光学的計測手法による熱伝達率分布の定量評価を並行して実施するものである。以下のそれぞれの進捗を示す。 (1)集積型熱制御デバイスの設計・製作については、流路構造を設けたマイクロ沸騰冷却面の設計および試作を着々と進めて、基本設計を完了した。多層積層接合によるデバイス製作の部分が一部遅れているものの、積層さえできればすぐに性能評価および伝熱性能向上の指針構築を行う準備がおおよそ完了している。 (2)熱流動現象の制御と定量評価についても順調に進展している。熱伝達率分布の定量評価については、感温塗料の塗布条件やセンシング多層膜構造をマイクロメートルオーダで制御することで、熱的に非常に早い現象である沸騰熱伝達の可視化と熱伝達機構の定量評価に成功した。本成果は国際誌への論文投稿に繋げた。本評価技術は、沸騰熱伝達だけでなく、凝縮伝熱面や流路の温度分布評価にも活用することを予定している。また、ナノ・マイクロ構造を有する伝熱面上の凝縮液滴挙動の制御については、伝熱促進のための指針を構築のための試作評価を着々と進展させるとともに、数値解析シミュレーションによりマイクロ液滴に生じるダイナミクスを明らかにする準備を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
3次元マイクロ流路ネットワークの構築では、前年度までに基本設計と試作・評価を行ったマイクロ流路およびナノ・マイクロ伝熱面構造を設けた熱制御デバイスを製作し微細流路内のマイクロ熱流動現象に及ぼす影響と伝熱促進効果を定量的に調べる。評価の際には、既に沸騰伝熱面への適用に成功しているTSP計測による温度および熱伝達率分布の可視化技術を導入し、デバイス内における液供給流路と蒸気拡散流路を熱源配置や、熱伝達向上に寄与する固気液三相界線を効果的に拡大させるための知見を構築する。本デバイスの製作にあたって、産総研およびNIMSの微細加工プラットフォームの各種装置を活用して、研究代表者自身が形状制御を行うことで多様な形状加工を実現する。また、シリコン接合技術については、産総研デバイス技術研究部門の松前貴司主任研究員の技術協力を得る。さらに、マイクロ混相流体に及ぼす微細構造、表面性状の影響の物理的な意味を詳しく調べるために、省エネルギー研究部門の高田尚樹上級主任研究員にも協力いただき、混相流体の数値シミュレーションの技術開発を並行して進めることで、実データとの比較検証を行い、次世代半導体の冷却などへの適用を見据えたデバイス開発指針の構築を目指す。
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