ヒトや動物は直立や歩行中に将来の自己の状態を予測して動作を生成する。予測動作の生成には自己の身体内部モデルに基づく予測が必要である。内部モデルは自身の運動状態を表すモデルであり、生物はこのモデルを学習的に獲得する。本研究では、このような姿勢制御・運動制御における予測制御系の原理解明を目指して、予測制御系および内部モデルの学習系のモデル構築と動物の神経系における予測制御機構の原理に迫る研究を行っている。 本年度は(1)直立のシステムモデルにおける内部モデル障害の影響評価、 (2)大脳に障害を持つラットを対象とした予測外乱実験による予測動作に関わる大脳領域の検証、を行い、以下の研究成果を得た。 (1)小脳における障害が予測動作に対して与える影響を調べるため、システムモデルを用いて内部モデル障害の影響を調べた。これまで構築してきた健常者の直立予測動作を再現するシステムモデルにおいて、予測制御に用いられる内部モデルに外乱を与えることで内部モデルの障害を再現し、動作への影響を調べた。その結果、内部モデルに対して一定の大きさ以上の外乱を入れることで、予測動作が現れなくなり、姿勢制御の戦略が変わる様子が見られた。このことは、小脳における内部モデルの障害が予測動作の障害を生じる可能性を示すものであった。 (2)小脳とともに予測動作中に活動が見られる大脳皮質ALM領域の直立予測動作への寄与を、ラットを用いて調べた。ラットの大脳皮質ALM領域をムシモールによって不活性化し、光刺激を与えた後に傾斜外乱を与える予測外乱環境に対する学習を調べた。その結果、不活性化によって、傾斜外乱に対する姿勢制御の学習機能が下がる様子が見られた。これにより、小脳と大脳皮質ALM領域との連関が予測制御の機能に関わっている可能性が示唆された。
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