最終年度では,移動型局在振動の初期値生成手法を2次元スカラー格子に適用し,2次元格子における移動型局在振動の探索を行った。スカラー格子は振動子の配置と運動の座標が独立している格子である。例えば,2次元平面上に並べられた電気回路による結合振動子などが該当する。このモデルに対して静止型局在振動の数値的厳密解を求め,それを周波数・波数空間で補正することで移動型局在振動の初期値を生成した。結果として,移動方向によって速度や直進性,寿命などが異なることが明らかになった。これらのメカニズム解明にはさらなる検討が必要である。 実験的検討としては,倒立型2自由度振動子を用いた準1次元格子を製作し,移動型局在振動の生成実験を行った。各振動子は棒バネと先端に取り付けられた円筒型磁石によって構成されており,磁力によって互いに相互作用するものである。これらを1列に並べた場合と,3列に並べた準1次元格子の場合とで,端点を加振機によって振動させる実験を行った。結果として,数値シミュレーションと一致するような移動型局在振動の生成が確認された。 現実系については,白雲母結晶中のカリウムイオンシートにおける局在振動の検討を行った。検討モデルについては,本来2事件的な格子構造を持つカリウムイオンシートから,ある格子軸方向のみを考慮した1次元格子に自由電子の影響を強結合近似によって導入したモデルを用いた。数値的な検討の結果,局在振動の中心に電荷の確率分布の中心が来るような解が長時間安定して存在することを明らかにした。
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