研究課題/領域番号 |
21K03971
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
有川 敬輔 神奈川工科大学, 工学部, 教授 (50350674)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ロボットキネマティクス / 機構拘束 / 形状操作性 |
研究実績の概要 |
タンパク質の局所構造の形状操作性に着目し,その特性を評価する方法を,ロボットキネマティクスを基に検討を行った.タンパク質の局所構造の形状操作性とは,直鎖的に繋がる数個から数十個のアミノ酸の外形の変化しやすさに関係する性質を意味する.この評価方法の検討にあたり,ロボットアームの制御性の評価基準である可操作性に注目した.可操作性においてはアーム上に設定された単一の手の状態に注目するが,これを一般化し,手の状態を局所構造内の点群の状態に対応させ,さらに,点群の剛体的運動を除くための代数的処理を組み合わせることにより定式化を行った.また,可操作性に着想を得た形状操作性の評価指標として,形状変化の大きさ,および,形状変化の等方性に関する2種類のものを考案した. タンパク質の3次元構造データベース(PDB)からランダムに取得した500個のタンパク質の構造について,開発した計算機プログラムを用いて解析を行った.その結果,2次構造および特定のアミノ酸の出現率と形状操作性の間に関連を見出すことができた.さらに,局所構造の形状操作性を個々のタンパク質について平均化したところ,タンパク質の機能と形状操作性との間に統計的に有意な関係性が存在することを確認した(例えば,免疫系に関わるタンパク質は形状変化の等方性が高いなど). なお,上記解析で実施した定式化においては,土台と手に対応するリンクの区別を行わない,3個以上の参照リンク間の相対的状態の解析を可能とするなど,一般的なロボットキネマティクスに設定された暗黙の前提条件を解除することが含まれている.これらはロボットキネマティクスを機構拘束言語へと発展させるための重要な手続きとなっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,暗黙の前提にとらわれることなく,ロボットキネマティクスを機構拘束系の挙動を解析するための共通言語(機構拘束言語)として捉え直し,これによりタンパク質に代表される生体機能分子の機能的振舞を支える構造や現象を理解することを目的としている.前年度は,タンパク質をロボット機構としてモデル化し,特に連続3残基で構成された局所構造について,その逆運動学問題を解く方法を明らかにし,解の個数とタンパク質の2次構造の間に一定の関係を見出した.当該年度は,研究実績の概要に記載したように,解析方法をさらに発展させ,タンパク質の局所構造の形状操作性を解析するための手法を,ロボットアームの可操作性の概念を一般化する形で定式化した.そして,開発した計算機プログラムにより500種類のタンパク質について解析を行った結果,タンパク質の機能と形状操作性との間に統計的に有意な関係性が存在することを確認することができた.これまでに得た結果は,いずれも,標準的なロボットキネマティクスをそのまま適用して得られたものではなく,そこに設定されている暗黙の前提条件を適切に解除した定式化とそのプログラム実装によって,初めて得られたものである. 以上のように,ロボットキネマティクスを機構拘束言語として構成し,それにより生体機能分子の機能的な振舞を理解するという過程を着実に実行できていることから,「おおむね順調に進展している」との判断を行った.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,ロボットキネマティクスに設定されていた暗黙の前提条件を解除した上で,タンパク質の特性を解析することを行ってきたが,これをさらに発展させていく.例えば,形状操作性の解析においては微小運動が前提になっていた.しかし,タンパク質が示す構造変化の中には,微小運動の線形拡大では説明できないようなものも存在する.そこで,解析の枠組みを発展させ大規模な運動にも対応できるようにする(具体的には微小運動とモデルの再構築の繰り返しによる方法を検討している).また,これまでに行った主要な解析である逆運動学解析と形状操作性解析は,いずれもタンパク質の局所構造を対象としてきた(タンパク質内の全ての局所構造の特性を平均化することで全体の特性としてきた).しかし,タンパク質の機能発現においては,その表面の性質が重要な役割をすることも多い.そこで,構造全体の凸包処理と組み合わせるなどして,表面の性質を抽出できるようにする.さらに,これらの新たな解析手法を計算機プログラムとして実装し,タンパク質を中心とする様々な生態機能分子の解析を行い,その解析結果と文献等で報告されている実際の特性との対応を検討することにより,これらの手法の有効性の検証を行う. 解析の枠組みを発展させていく過程は,基本となる解析手法にも修正を加えることを含んでいる.つまり,この過程はロボットキネマティクスを機構拘束言語へと転換していく過程にも対応している.最終年度のまとめとして,本研究全体を通して得られた機構拘束言語としてのロボットキネマティクスと,ロボット機構の解析に用いられる標準的なロボットキネマティクスとの共通性と違いを明確化することも行う.
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