研究課題/領域番号 |
21K03990
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研究機関 | 奈良工業高等専門学校 |
研究代表者 |
早川 恭弘 奈良工業高等専門学校, 電子制御工学科, 特任教授 (50180956)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 認知症発症予防 / 歩行訓練 / 仮想現実 / 足部刺激 / 二重課題歩行 / 脳波測定 / 眼球運動 / ゴム要素 |
研究実績の概要 |
近年,認知症を発症する高齢者が増大しており,歩く質(運動の強度[歩行速度,歩幅など])を考えた歩行が認知症予防に有効であると言われている.また,眼球運動も予防法の一つとして注目されている.そこで,今年度の研究では,認知症対策のための精神的・身体的な側面からの取り組みとして,VRシステム及び,歩行の質を維持する機能を有する歩行サポートシステムに関する基礎システムの構築を行った.具体的には,VRシステムに関して,眼球運動を通して脳を刺激し,リアルタイムで効果の高い整形型リハビリを提供する手法を検討した.そして,VRシステム内で表示するゲームの難易度を変更させることにより,認知負荷と脳波の関係を調べ,システム開発のための基礎データを収集した.また,難易度の変化が認知負荷へ与える影響を定量的に評価するための手法について新たに検討した.次に,歩行サポートシステムに関しては,室内において,ARグラスを用いて計算などの二重課題を行いながら歩行訓練するシステムの予備実験を行った.具体的には,二重課題をグラスに表示させる基礎システムを構築し,片手操作により計算をしながら歩行する時の歩行状態をモーションキャプチャーにより明らかにした.そして,携帯電話による二重課題との比較を行った.また,歩行は認知症予防に効果があることから,歩行時おける足裏部の圧力分布を測定する要素を製作し,足裏圧力分布の変化から摺り足,通常歩行などの歩行パターンを推定する基礎システムを構築した.さらに,認知症予防効果として,足親指部への負荷が有効であることから,足部先端に負荷をかける1本歯サンダルに足裏部に作用する圧力を測定する要素を配置し,歩行時における足裏部への圧力分布を測定した.そして,足部に効果的な刺激を与える一本歯サンダルの構造を調べた.また,脳に効果的な刺激を与える足部親指部用要素の検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況を整理すると以下のようになり,概ね順調であると判断できる.1)購入したVR装置は,脳波計をオプションで有しており,VR使用時における脳波の状態をリアルタイムに測定できる.そこで,認知課題として,難易度が異なるゲームを試作し,リラックスした状態で現れるα波(8-12Hz)や集中した状態に現れるβ波(12-38Hz) の比率を測定した.ここで,脳波の解析方法は,各周波数帯パワースペクトルを記録し,思考評価に有効とされるβ/αを指標とした.そして,実験としては,難易度一定実験及び,難易度増加実験を行った.実験では,課題実行中の脳波を計測し,難易度と脳波に相関関係があるかどうか検討を行った.実験結果より,眼球運動を伴うVR認知課題でも難易度が高いほどβ/αが高くなることが確認でき,同じ難易度課題であっても被験者によってβ/αの平均値が異なるため,脳にかかる負荷は人によって異なることが明らかとなった.2)ARグラス或いは携帯電話による二重課題実施時における歩行パターンの比較を行った.歩行に関しては,歩行時間,歩数,歩幅,足の上げ幅,歩行速度の実験項目に関して調べた.実験の結果,ARグラスと携帯電話で二重課題を行った場合,実験項目による違いが無いことがわかった.また,通常歩行と二重課題実施時の歩行の違いに関しては,二重課題実施時の歩行時間,歩数が増加することが分かった.逆に,歩幅,足の上げ幅,歩行速度は,減少する結果となった.3)摺り足などの歩行パターンを足裏圧力分布の変化から推定でき,足部のグリップ力を測定可能な要素を開発した.歩行パターンに関しては,摺り足と通常歩行の違いを示すことができた.また,歩行時における足裏への刺激としての足部グリップ力は,安定歩行および認知症予防に対して有効であることから,一本歯サンダルの歯を取り付ける最適な位置と歯の高さを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
1)VRシステムに関しては,認知負荷から適切な難易度を推定しフィードバックを行う機能の開発を行う.具体的には,VRコンテンツを変化させた時に被験者からどのような応答が返ってくるのかの定量的評価を脳波の観察により行う.また,構築したシステムが脳に与える影響度を評価する為に,課題の遂行自体が脳に与える負荷を課題非遂行時と比較することで定量的に調べる.さらに,適切な難易度を推定しフィードバックを行う方法として,ある時間間隔毎に難易度を変更あるいは,逐次変化させる方法に関して検討する.また,課題難易度の変化に対し,脳波の反応がどれほどの速度で返ってくるのかを定量的に評価する.さらに,難易度の差が小さい場合に,基本ベースの課題に対する色記憶追加に関する難易度の付加を行う. 2)足部親指刺激が脳に効果的な刺激を与え,認知症予防に効果があることから,一本歯サンダルの親指接地部に研究室で開発したゴム要素(連泡ゴムの外側をシリコンゴムでコーティングした構造)を取付ける.ここで,一本歯サンダルを使用する理由は,一本歯サンダルを履いた時,足部前方が前傾姿勢となることから,足部の親指に対し刺激を与えることができる.そこで,親指部に効果的な刺激を与えるためのゴム要素形状,剛性を明らかにする.そして,圧力分布センサにより足部への圧力分布状態を調べる.また,歩行時の足裏分布状態をARグラス及びタブレットに表示させることにより,理学療法士及び被験者自身が足裏分布状態を把握し,安定な歩行を行なっているかどうか確認させる.さらに,一本歯サンダルを履いた状態で,ARグラスによる二重課題を行う場合の姿勢変化を調べる.また,一本歯サンダル使用時において,ARグラス或いはHMD装着時における脳波を測定することにより,一本歯サンダル使用時の不安感を軽減し脳に効果的な刺激を与えるシステムを明らかにする.
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