研究課題/領域番号 |
21K04016
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
神谷 淳 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (00224668)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高温超伝導体 / 遮蔽電流密度 / 有限要素法 / 高速多重極法 / H-行列法 / Krylov空間法 / 前処理技術 / 高性能計算 |
研究実績の概要 |
電流ベクトル・ポテンシャル法で定式化された遮蔽電流密度方程式の初期値・境界値問題を時間に関して離散化すると,各時間ステップにおいて非線形境界値問題が得られる.しかしながら,高温超伝導(HTS)薄膜がクラックを含む場合,非線形境界値問題にNewton法を適用すると,膨大な計算時間を浪費する.これは,Newton法の各反復で解くべき一般化鞍点問題に起因している. よく知られているように,Krylov部分空間法を一般化鞍点問題に適用すると,その収束特性が著しく劣化する.この問題を解決するため,2019年に著者らは変数低減法(VRM)を開発し,遮蔽電流密度解析コードにVRMを実装した.その結果,クラックを含むHTS薄膜中の遮蔽電流密度解析にVRMが極めて有効であることが判明した.一方,VRMでは,その反復初期において残差が一時的に停滞することが観測された. 本年度は,残差停滞現象を解消することによって,一般化鞍点問題の高性能ソルバーを開発することを目指した.この目的のために,本研究では,VRMを根本的に見直すことによって,改良型変数低減法(iVRM)を提唱した. 従来,VRMでは射影子を決定するのに,QR分解を用いていた.しかしながら,QR分解は計算コストが極めて高いことが知られている.この問題を解決するために,iVRMではQR分解を用いないで反復法によって,射影子を近似的に決定している.そのため,iVRMでは計算コストが劇的に低減される.さらに,iVRMをEFG/X-EFG型鞍点問題に適用した結果,iVRMが一般化鞍点問題を解くための強力なツールになり得ることが実証された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は,高温超伝導体を流れる遮蔽電流密度の時間発展を評価するための高速・高精度解析技術を考案し,さらに,同技術を用いて超伝導応用機器の設計支援ツールを開発することである.特に,本研究では高速数値計算技術を遮蔽電流密度解析に応用することによって,数百万個の節点をもつ超伝導応用機器中の遮蔽電流密度解析を実現することを目指す. 本研究を推進する方法として,3つの段階を設定する.先ず,第1段階の「方法論開発フェーズ」では,高温超伝導体の電磁特性データベースを構築し,データに基づいた数理モデルを提案する.第2段階の「高性能化フェーズ」では,高速数値計算技術を実装することによって,3次元遮蔽電流密度解析コードを開発する.最終段階の「工学的実証フェーズ」では,同コードを用いて超伝導応用機器中の遮蔽電流密度を定量的に評価する. 本年度は,第1段階を完了し,第2段階の「高性能化フェーズ」を達成する目的でiVRMを開発し,その性能を実証した.これは,「高性能化フェーズ」を50%近くまで進めたことを意味している.それ故,現在までの研究状況は当初の計画以上に進展していると言っても過言ではない.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,「方法論開発フェーズ」,「高性能化フェーズ」,「工学的実証フェーズ」の3段階を当初設定していた.これまでに,「方法論開発フェーズ」を完了し,「高性能化フェーズ」として改良型変数低減法(iVRM)を提唱し,その性能を数値的に評価した. 今後の研究では,iVRMを3次元遮蔽電流密度解析コードに実装した後,PCクラスタやGPGPUによる並列分散処理コードを開発する.さらに,同コードによって,超伝導磁気浮上システムにおける動的電磁力,超伝導送電線の交流損失,磁気遮蔽装置(例えば,炭素線治療用超伝導回転ガントリー中のパッシブ超伝導コイル)の遮蔽性能の何れかを定量的に評価する.また,超高速ペレット射出装置の設計を支援するための最適化シミュレーション・コードの開発も行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,並列分散処理用コンピュータを性能を向上させるため,CPU,マザーボード,メモリを8セット購入する予定だったが,本年度は科研費から4台分のみを支出し,残りの4台分は別の研究費で支出したため,助成金に約30万円の残金が生じた.さらに,メキシコで開催予定だった国際会議COMPUMAG2021がオンライン開催となったため,参加を取りやめた.そのため,旅費と参加登録費の計33万円の残金が生じた.以上の合計の約63万円が次年度に繰り越されることとなった. 上記約63万円を翌年度分として請求した助成金と合わせることにより,可視化専用コンピュータの購入と出張旅費および学会参加登録費に充当する予定である.
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