研究課題/領域番号 |
21K04018
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
佐野 憲一朗 東京工業大学, 工学院, 助教 (60589307)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 直流送電システム / 直流系統 / 直流遮断器 / 瞬時電圧低下 / 運転継続 / 多重化 / 信頼度 |
研究実績の概要 |
再生可能エネルギーの大規模導入と需給調整のための電力融通拡大を背景に,電力系統の広域連系が進められている。これに伴い,大容量長距離送電に適した直流送電の導入が世界的に活発化している。また将来的には,既存の複数の電力系統をつなぐ形で,直流送電による基幹送電系統(直流系統)を構築するという構想が描かれている。一方で,重要な社会インフラである基幹送電系統には,設備の故障時にも送電を継続できる高い信頼度が求められる。交流による既存の基幹送電系統では,ネットワーク全体として高い信頼度を実現してきた。ところが直流送電では,ネットワークを構築した際に高い信頼度を実現する方法が確立されていない。そこで本研究では,単一設備故障時にも送電を継続できる高信頼度の直流系統構築技術を確立することを目的に,【実施内容1】直流系統の信頼度向上に向けた多重化方法の開発,および【実施内容2】直流系統故障に対する交直変換器の運転継続性能の向上について取り組んでいる。 これまでの研究では,短期間での実用化を念頭に直流遮断器を用いない方式と,中長期的な実用化を目指し直流遮断器を用いた方式の2方式を対象に検討を実施した。直流遮断器を用いない方式については,平行二回線送電システムを対象としたスケールダウン構成の模擬直流系統設備を構成し,一回線故障時における発電設備の運転継続性能を実験で検証した。直流遮断器を用いた方式については,シミュレーションによる原理検証を行った。モジュラーマルチレベル変換器(MMC)に対して直流電流制御を適用することにより,直流線路故障時に変換器を運転継続できることを確認した。今後は後者についても模擬直流系統設備を構築し,実験により有効性を検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【実施内容1:直流系統の信頼度向上に向けた多重化方法の開発】本項目では,設備故障時の信頼度向上を目的として,送電経路の多重化技術を開発する。具体的には,直流線路の平行二回線送電の方法を明らかにし,また変電所内の母線故障への対応が可能な二重母線方式を開発する。今年度は,直流遮断器の代わりにダイオードを用いた平行二回線送電におけるミニモデル実験を実施し,一回線故障時における発電設備の運転継続性能を実験で確認した。この成果については国内会議で報告した。またマルチポート直流遮断器を適用した二重母線方式を考案し,変電所内の母線故障時においても故障前の4分の3の電力を送電し続けることができることをシミュレーションにより確認した。この成果は,論文に取りまとめ国際会議で報告した。
【実施内容2:直流系統故障に対する交直変換器の運転継続性能の向上】本項目では,直流系統の故障に起因する直流瞬時電圧低下に対する,交直変換器の運転継続性能の向上を図ることを目的として,交直変換器の制御法を開発する。今年度は,直流遮断器を適用した平行二回線送電を対象に,直流線路故障を発生させた場合の瞬時電圧低下の様相をシミュレーションにより調査し,その特性を明確化した。そして,モジュラーマルチレベル変換器(MMC)に対して直流電流制御を適用することによる運転継続性能を確認した。過電流による変換器の脱落を回避するために制御法の改良を実施した。これにより,故障時においても変換器を運転継続できることをシミュレーションにより確認した。この成果は論文に取りまとめ,今後国際会議で報告する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
【実施内容1:直流系統の信頼度向上に向けた多重化方法の開発】これまでに実験検証を終えたダイオードを用いた二回線送電方式について,得られた知見を論文に取りまとめ発表する。また同様の手法の,双極方式の直流送電に対する適用可能性を検討する。その後,直流遮断器を用いた二回線送電の検討を行う。
【実施内容2:直流系統故障に対する交直変換器の運転継続性能の向上】これまでに考案した交直変換器の制御法について,シミュレーションにより得られた知見を論文に取りまとめ,国際会議で報告する。また,スケールダウン構成の交直変換器を用いた実験設備を構築し,実験検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室に既導入のコンピュータおよびシミュレーションソフトウェアを本研究へ転用することにより,研究の遂行に支障をきたすことなく,当初計画していたシミュレーション環境の構築費用を大きく削減することができた。この費用は令和4年度に実施する実験において,実験用設備および実験補助委託費に充当する予定である。
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