研究課題
電気機器用鉄心材料は,交番及び回転磁束下で磁化されるとともに,励磁方向で磁化のしやすさが異なる磁気異方性を有しており,これらの磁気現象を考慮した電気機器設計を行うことが必要である。一般に,透磁率テンソルは磁束密度ベクトルと磁界強度ベクトルを関係づける物理量であり,磁気異方性を表すことができる。従来の電磁界解析手法では,透磁率テンソルの非対角項をゼロとしており,鉄心材料の磁気異方性を正確に考慮した電磁界解析を行うためには,すべての透磁率テンソルの値を測定し,その挙動を明らかにすることが重要である。研究代表者は,これまでの研究によって,数学的なテンソルの座標変換の関係式と四方向の透磁率を測定することで透磁率テンソルを求めることができる理論を見い出した。本研究課題では,鉄心材料の透磁率テンソルの解明及びそのモデル化を行い,さらに透磁率テンソルを考慮した電気機器の電磁界解析技術の開発に取り組む。これまでに透磁率テンソルの測定法及びその結果に関する研究報告例はなく,基礎から検討を行う必要があるため,測定装置の開発から透磁率テンソルのモデル化及び電磁界解析手法の開発を3年間の期間で行う。今年度は,鉄心材料の透磁率テンソル測定を行い,そのモデル開発に取り組むため,昨年度開発したシステムを用いて,交番及び回転磁束下における透磁率テンソルを測定し,その評価を行った。まず,四方向励磁による励磁器を用いて,交番及び回転磁束を発生させ,4方向の磁束密度と磁界強度を測定した。さらに,測定結果を用いて,透磁率テンソルを導出し,交番及び回転磁束と透磁率テンソルの関係を明らかにした。最後に,透磁率テンソルを用いた磁気特性表現のための新しい工学モデルを提案し,その妥当性を検討した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は,鉄心材料における透磁率テンソルの導出方法及び透磁率波形の表現方法を提案し,透磁率テンソルを測定するために,4方向から励磁することが可能な磁化器を作製し,4方向の磁束密度測定と4方向の磁界強度を測定するテンソル磁気特性評価システムを開発した。今年度は,開発したシステムを用いて,実機駆動時におけるモータ鉄心材料の交番及び回転磁束下における4方向の磁束密度と磁界強度の測定を行った。当初の波形制御プログラムでは制御することが困難であったため,4方向の励磁波形に重みを設け,4方向の磁束密度波形を正弦波に制御できるように改良を行った。次に,無方向性鋼板の透磁率テンソルの測定結果を示した。無方向性電磁鋼板において,交番磁束条件下では透磁率テンソルの非対角項はほぼ0であったが,回転磁束条件下では非対角項が有限の値を持つことを明らかにした。最後に,透磁率テンソルを用いて任意磁束条件下の磁界強度ベクトルの推定を行い,無方向性電磁鋼板において,交番磁束条件下において測定結果と推定結果はほぼ一致したが,回転磁束下の磁気特性において誤差が大きいため,引き続き,モデリングの改良が必要であることがわかった。
今後は,引き続き,モータ鉄心材料の交番及び回転磁束下における透磁率テンソルを測定及び分析し,モデルの改良を進める。また,透磁率テンソルを考慮した電気機器の電磁界解析を行うため,本システムを用いてデータベースを収集する。この際,膨大なデータベースが必要となり測定に時間を費やす場合には,波形制御手法についても改良を行う。さらに,本モデルを用いて電気機器の解析を行うために,透磁率テンソルのモデリングを電磁界解析の基礎方程式に組み込み,定式化及び離散化を行い,電磁界解析プログラム作成し,簡単な電気機器モデルを用いて,解析結果と実測結果を比較し,本手法の妥当性を検証する。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件)
第34回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム,SEAD34
巻: 13B1-2 ページ: 13B1-2
第31回MAGDAコンファレンスin鹿児島,MAGDA2022, ~電磁現象及び電磁力に関するコンファレンス~
巻: OO-7-3 ページ: pp.638-641