研究課題/領域番号 |
21K04030
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
桐生 昭吾 東京都市大学, 理工学部, 教授 (00356908)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ニードルパンチ法 / 縫込みコイルの損失 / フラクタルアンテナ / 電力発振器 |
研究実績の概要 |
新たにニードルパンチ法を応用した縫い付けコイルの作製方法を提案した。これにより、損失の小さい太いリッツ線を用いてコイル作製が可能となった。 裁縫技術を用いたコイルの15 MHzまでの高周波での損失評価を行った。近接効果による損失を見積もるために浮遊容量による損失を軽減する方法として、二つのコイルを並列に接続し、その間隔を変化しながら測定を行った。その結果、リッツ線間が数ミリ離れれば巻き線間の近接効果による損失は無視できることを明らかにした。一方、浮遊容量による損失は大きく1 cm程度離しても、これによる損失が影響することを明らかにした。 裁縫技術を用いたコイルの高周波化を行うために144 MHzの周波数で用いるアンテナの研究に着手した。フラクタルパターンアンテナを布に縫込んだ試作アンテナは144 MHz付近の周波数で-20 dBよりも小さい反射係数を実現でき、この技術の新たな応用を開くと考えられる。 ベッドからウェアラブル機器や体内植え込み機器への給電を行うために、シャツに縫い込む磁場共鳴型非接触電力伝送の研究を行っている。この場合、寝返りや体動などにより、送電コイルと受電コイル間の結合係数が変化する。これにより、共振周波数が変化するため、送電周波数をこれに応じて変化させなければならない。この送電周波数の変化を自動的に行うための方法として、近年注目されている電力発振器を用いた方法を導入する研究に着手した。直列共振回路に正帰還をかけた電力発振器を用いることにより、送受電コイルが比較的近い場合、シミュレーションでは90 %以上の電力効率が得られることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究では、本研究での前半の課題であった電力伝送システムの高周波化に対して問題となるコイルの損失について評価を行った。この結果、裁縫技術を使用したコイルについては、浮遊容量による損失は高周波になるにつれて非常に大きくなり、この損失は設計において十分に考慮しなければならないことが分かった。 コイル作製法として、これまで非常に手間がかかっていたコイル作製について新たにニードルパンチ法を応用した方法を提案し、コイル作製の手間を軽減できるようになった。 本研究ではペースメーカや植え込み型除細動器などの体内植え込み機器への外部からの給電を想定したシステムを目指している。ペースメーカなどは電池が内蔵されているため、寝ている間にベッドから給電するシステムをこれまでに提案して来た。このような場合に問題となるのは利用者の動きによって結合係数が変化し、それに応じて共振周波数が変化するために、送電側で周波数調整を行う必要がある。この周波数調整を自動で行う方法として、近年、電力発振器を利用した非接触電力伝送が研究されている。本研究においても、この方法が有効であると考えられるので、電力発振器を利用した非接触電力伝送の研究を開始した。 本研究の目標の一つに電力伝送周波数を高くすることがある。これに関しては、現在、6.75 MHzや13.5 MHzでの動作を想定して回路シミュレーションを開始している。さらに高周波である144 MHzにおける電力伝送の研究も開始している。この周波数帯となると電磁波としての設計開発が必要となり、新たに裁縫技術を利用して作製したアンテナの研究を開始している。2022年度にはフラクタルパターンアンテナを実際に作製し、良好な反射損失特性が得られることを明らかにしている。 以上より、概ね順調に研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度では、シャツなどに縫い付けたコイルでより快適性を向上させるために伸縮可能なコイルを提案し、その電気的特性を明らかにする。伸縮可能なコイルとして、リッツ線をジグザグに縫い付ける方法を検討している。 2022年度から開始した電力発振器を利用した非接触電力では、回路構成が簡単で電力伝送効率が高いRoyer型の電力発振器を利用した非接触電力伝送の研究を開始する。すでに準備的な特定のパラメータでは90 %以上の電力伝送効率を確認しているが、より現実的な回路パラメータでのシミュレーションと実際の回路作製を通して実証する予定である。 高周波については、2022年度に予備的な研究を行い、ループアンテナやフラクタルパターンアンテナの反射損失やインピーダンス特性をシミュレーションや試作によって評価したが、2023年度では試作したアンテナについて指向特性を明らかにすることを目標としている。 2022年度に裁縫技術を利用したコイルについて変位センサーとしての応用を検討していたが、このコイルと磁性粉末を混ぜた布用絵具の塗布によりコイル損失が変位に対し大きく変化することが分かった。2023年度では、この新たな研究を開始しセンサーとして使用する場合のパラメータ等の影響をシミュレーションや実測により明らかにする予定である。 また、引き続き電力伝送の高周波化については、コイル損失を考慮した設計や回路の提案を行って行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度購入を予定していた工業用ミシンの値段が100万円以上の値段であり、購入困難であったため、ミシンを用いたコイル作製の代わりに新たにパンチニードル法によるコイル作製を提案した。この結果、ミシン購入に代わり、長く購入を控えていた電力伝送用のパワー電源として使うバイポーラ電源を購入した。これにより、17万円ほどの残金が生じたが、2023年度にこれまでの成果を学会発表や国際会議発表を行う予定であり、この費用が必要になるため次年度繰り越しとした。
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