研究課題/領域番号 |
21K04036
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
石田 弘樹 岡山理科大学, 理学部, 准教授 (50413761)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ワイヤレス給電 / PT対称性 / ロバスト性 / インバータ / DCDCコンバータ |
研究実績の概要 |
システムの設計、作製を主に行った。コイルの位置が動的に変化する系においては、空間・時間反転(PT)対称性の利用が有効である。PT対称性が保存されれば、コイルの位置が変化しても、伝送電力と電力効率が常に一定に保たれる。長い伝送距離に渡ってPT対称性を保存させるため、PT対称性が保存できる限界の磁気結合係数(臨界磁気結合係数)を結合モード理論から検討した。その結果、給電コイルとコンデンサを直列接続し、受電コイルに対して2つのコンデンサを直接および並列接続した回路(S-SPトポロジー)が臨界磁気結合係数を小さな値にするために有効であることがわかった。具体的にはS-SPトポロジーにより臨界磁気結合係数0.04の非常に弱い結合においてもPT対称性の保存が可能になった。 次にコイル間の磁気結合係数をできるだけ高めるために電磁界シミュレーションによりコイル形状の最適化を行った。その結果、軸方向のコイルの長さ(コイル長さL)とソレノイドコイル両端の磁性体コアの磁極の長さ(磁極長C)には最適な比があることがわかった。C/L比が0.6から0.7の範囲にあるとき0.04以上の磁気結合係数を伝送距離75 mmまで維持できることがわかった。 PT対称性ワイヤレス給電システムを作製し、実験的に伝送距離77 mmまでPT対称性の保存を確認した。このとき、伝送効率は80~82%であった。この性能は、設計値としての75 mm、84%におおよそ一致していた。なお、スイッチンアンプおよび、DCDCコンバータがシステムに含まれるが、スイッチンアンプは95%、DCDCコンバータは88%の高い電力変換効率を達成することができた。システム全体での総合効率は67~69%であり、市販されている既存システムと比べて遜色ない効率であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間3年の2年目にあたる本年度は、PT対称性を応用した実用的なシステムの構築が目標であった。研究の結果、これを達成することができ、構築したシステムが設計通りの性能を有していること確認することができた。 特記する成果としては、結合モード理論からPT対称性が保存できる限界の磁気結合係数(臨界磁気結合係数)の理論式を導くことできた。また、様々な方式の共振回路について臨界磁気結合係数の式を導出したところ、S-SPトポロジーがより小さな臨界磁気結合係数を実現できることがわかった。さらに、理論解析から、受電側に降圧チョッパ回路を取り付け、降圧チョッパ回路の通流率によって実効的な負荷抵抗値を調整することで臨界磁気結合係数をより小さな値に設定できることがわかった。結果的に0.04の臨界磁気結合係数を達成すること成功した。 最終的に作製したシステムには、100×20×10 mmの小型ソレノイドコイルを用いた。このコイルの臨界伝送距離は77 mmであり、設計値とほぼ同じ距離であることが確認された。コイルのサイズと伝送距離には正の相関があるため、コイルの体積の3乗根を基準長さと定義して、この基準長さで臨界伝送距離を割った値を規格された臨界伝送距離とした。他の研究報告と規格された臨界伝送距離を比較したところ、本研究結果が、これまでに報告されている最長の臨界伝送距離であった。 以上、本研究は当初の研究計画通り進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間3年の2年目において目標を達成するシステムの構築に成功した。最終年度である3年目においては、構築したシステムの詳細な評価を行う。特に、コイルの位置ズレの応答速度について評価する必要があると考える。具体的な評価方法として、給電コイルをモーターにより高速で回転させて、磁気結合係数に速い変動を与えたときの応答性を計測する計画である。この実験のためにコイルを回転させる機能の製作から研究に着手する。また、最終年度であることから、研究成果を学術論文にまとめて発表する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
直接経費においてその他の費目に20万円の使用を予定していた。主な用途としては、論文投稿のための英文校正費および論文登録料を予定していた。しかし、論文投稿を次年度4月に行ったため、該当年度では使用することはなかった。次年度に同用途で使用する計画である。
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