研究課題
令和4年度は「超高解像度人体モデルと大規模解析に基づく準ミリ波・ミリ波帯人体ばく露の安全性評価」として、主に以下の研究を実施した。1)マイクロ波帯~ミリ波帯における頭部ばく露評価:皮膚厚さの異なる7種類の超解像度頭部モデルを用いて1GHz~100GHzの広範囲周波数における総吸収電力(TAP)、吸収電力密度(APD)及び皮膚厚さの違いによるAPD変化の詳細評価を実施した。本解析の結果から、i)表面平滑化を行わない従来モデルでは平滑化モデルよりも高いTAPを示すこと、ii)各部位の現実的な表皮厚さを考慮したモデルにおいては強い定在波が抑制されるため周波数領域のTAP変化量が他モデルより小さくなること、iii)皮膚厚みの違いによるAPD最大変動割合は平均面積4cm2及び1cm2でそれぞれ約20%及び10%以内になることなどが明らかになった。2)RT法に基づく全身SAR評価法の開発:本周波数帯における全身SAR評価の低計算コスト化を図るため、レイトレーシング(RT)法と超高解像度人体モデル作成過程で生成される高精度ポリゴンモデルを用いた全身ばく露評価システムのプロトタイプを開発した。本システムでは皮膚厚みを考慮した反射係数を用いることにより柔軟な解析を実現している。3)準ミリ波・ミリ波帯における皮膚吸収電力密度の相互比較研究:皮膚吸収電力密度の平均化方法検証のため、皮膚構造を考慮した簡易人体モデルを用いた10~90GHz帯のばく露解析を実施し、複数国際研究グループ間の相互比較を行った。その結果、1層及び3層皮膚モデルに対する空間平均吸収電力密度ピークの最大相対標準偏差(RSD)はダイポールアンテナ単体ではそれぞれ17.49%及び17.39%以下、ダイポールアレイアンテナではそれぞれ32.49%及び42.55%に増加することなどが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
準ミリ波・ミリ波帯ばく露の生体現象においては電磁波工学的に皮膚近傍における電力吸収が支配的になるため、マイクロ波帯に代表される様な頭部内部のホットスポットが原理的に生じない。しかしながら、具体的な解析を行ったところ本周波数帯ではマイクロ波より波長が短くなるため、新たな現象として特定の周波数においてで耳介内部にホットスポットが生ずる現象が確認された。このメカニズムを明らかにするために、複数種類の皮膚頭部モデルや多くの周波数ポイントにおける大規模な解析を実施する必要性が生じたため、当初の予定よりも多くの研究時間を要した。そのため、RT法に基づく全身SAR評価法の開発に移行する時期に少し遅れが生じたが概ね順調に進展している。
現在、FDTD法による全身ばく露評価についての研究成果をまとめており、結果を論文に投稿する予定である。また、本年度開発したレイトレーシング法の全身ばく露評価システムの計算及び精度の向上を図り、具体的なばく露評価を行うと共にFDTD法との比較検討を実施する予定である。また、日本人モデルだけでは無く外国人モデルについても高精度ボクセルモデルを開発して同様の解析を進める。
理由:本年度は新型コロナウィルスの新規感染者数がまだ収束しておらず、対面の学会発表を行うことのリスクが大きく出張旅費の使用が困難であったため、結果として次年度使用額が生じた。使用計画: 次年度使用額については来年度の新型コロナウィルス新規感染者数の状況を考慮しながら引き続き旅費として使用すると共に、大規模ばく露解析の計算結果を保存するHDDなどのストレージの容量が不足しているためストレージ装置の増強に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件)
IEEE Journal of Electromagnetics, RF and Microwaves in Medicine and Biology
巻: vol. 7 ページ: pp. 67-72
10.1109/JERM.2022.3218812
IEEE Access
巻: vol. 11 ページ: pp. 7420-7435
10.1109/ACCESS.2023.3238582
電気学会論文誌A
巻: vol. 142 ページ: pp. 250-256
巻: vol. 6 ページ: pp. 516-523
10.1109/JERM.2022.3203576